第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ヤングインパクトプレゼンテーション

ヤングインパクトプレゼンテーション9

2015年6月6日(土) 18:40 〜 19:40 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:平岡浩一(大阪府立大学地域保健学域)

[Y-09-1] 中枢神経障害後の神経回路再編を軸とした運動機能回復メカニズムと理学療法応用への展望

中川浩 (京都大学霊長類研究所統合脳システム分野)

脳血管障害,脊髄損傷などにより中枢神経回路が深刻な打撃を受けると,神経細胞死,変性や軸索損傷により生涯にわたって日常生活に支障をきたす運動麻痺・障害が出現する。中枢神経障害後に運動機能の回復がもたらされるには,ニューロンの可塑性変化や既存神経回路の代償性変化による新たな神経ネットワークの再編が必要であると考えられる。しかし,いったん破綻した神経機能ネットワークを再形成させる有効な治療法は未だ確立されていない。その原因としては,中枢神経細胞を取り巻く環境が神経再生・可塑性に適していないこと,そして中枢神経自体の再生・可塑性能力が弱いことなどがあげられる。近年,中枢神経損傷後の神経軸索の再生・可塑性を抑制もしくは促進させるたんぱく質が複数存在することが明らかとなり,それら因子がどのように神経細胞に働きかけているのかという分子メカニズムまでも解明されつつあり,治療的な展望も開けてきた。
これまで,中枢神経障害後の運動機能回復を促す治療手段のひとつとして,理学療法(リハビリテーション)が幅広く実施されている。それでは,理学療法が神経細胞もしくは,中枢神経環境にどのように働きかけているのであろうか?また,どの神経回路に対して効果を示しているのであろうか?この問題を紐解くことが,より効果的な治療法の確立へと繋がるのではないだろうか。中枢神経回路の再形成という課題に取り組むにあたって,モデル動物がよく用いられるが,成体においも脳および脊髄で代償的な回路の再形成が起こっていることを示す知見が集積している。この神経回路を修復する能力は私たちの体の中に元来備わっているのかもしれない。自然経過で起こる神経回路の再形成を理学療法(リハビリテーション)で促進するという戦略も今後の神経再生・可塑性治療の主要な目標のひとつになるのではないだろうか。今回は,モデル動物を用いた基礎的な知見から,理学療法への融合的発展を踏まえて述べたい。