第85回分析化学討論会

討論主題と依頼講演

討論主題(主題講演)

本討論会では以下の6件の討論主題を設定します。各主題ごとに依頼講演を設けると同時に,一般の参加者からも主題に関わる講演を募集します。ぜひ、依頼講演者とともに発表・討論に加わっていただきたく存じます。講演申込の際には,講演分類の選択のところで,討論主題名をお選びください。
 

1. 化学物質の環境リスクと分析化学

オーガナイザー:国末達也(愛媛大)、森勝伸(高知大)
 
(趣旨)
これまでの人間活動により多種の化学物質が環境中へ放出されてきたことに加え、近年では生活様式の多様化にともない、製造・使用される化学物質種も増大しています。その中で、環境残留性を示す化学物質の生態影響を評価することは、化学汚染のリスク管理にとって喫緊の課題となっています。本主題では、分析化学的手法を中心に環境リスクが懸念される化学物質の発生源、動態、生物蓄積などを評価した研究成果を紹介していただき、分析化学が果たす役割について議論します。

(依頼講演)
板井 啓明 東京大学 多媒体計測で俯瞰する水銀動態の特性
松神 秀徳 国立環境研究所 PFASに関する化学分析法と製品・廃棄物の存在状況について
伊藤 司 群馬大学 環境微生物の循環の効能とリスクを考える
森 勝伸 高知大学 閉鎖系山岳湖沼に降下した放射性セシウムの溶出可能性
国末 達也 愛媛大学 CALUXアッセイ法による生物蓄積性AhRアゴニストの活性評価


2. 「生物機能を調査する分析化学」×「生物機能を利用する分析化学」

オーガナイザー:小川敦司(愛媛大)、紙谷浩之 (広島大)
 
趣旨)
優れた分析手法の開発が生物機能の解明を前進させてきたことは言うまでもありませんが、逆も真なりで、解明された生物機能を利用することで新たな分析手法が産出されてきました。本主題では、この大きな2つの流れに関連する分野でご活躍されている先生方に最新の研究をご紹介いただき、それぞれの流れがどのような方向へ向かい、また互いにどのように交わりうるのか、みなさんで議論できればと思います。

 

(依頼講演)
小川 敦司 愛媛大学 アプタマーを基軸とした生物分析化学
竹田 浩之 愛媛大学 ヒトプロテインアレイを用いた網羅的相互作用探索とターゲットバリデーション
渡慶次 学 北海道大学 マイクロ流体デバイス:生物機能を調査・利用する分析化学のツールとして
西澤 精一 東北大学 RNAイメージング・検出プローブの分子デザイン
田井中 一貴 新潟大学 透明化技術を用いた生物機能の可視化と分析化学的応用


3.科学捜査で役立つ分析化学

オーガナイザー: 西脇芳典(高知大)、瀬戸康雄(理化学研究所)

(趣旨)
日本の刑事裁判では、刑事訴訟法第317条に「事実の認定は、証拠による。」と規定されており、証拠裁判主義が採用されています。犯罪における証拠は客観的な科学によって証明されるため、社会の安全・安心を守るには、科学捜査の発展は欠かせません。科学捜査は非常に幅広く、様々な分野の研究者の貢献が不可欠です。裁判員裁判では、国民の中から無作為に選ばれた裁判員が刑事裁判に参加し、裁判官とともに被告人の有罪・無罪や刑の内容を判断することになります。本講座では,司法解剖に関わる分析・生体試料に含まれる薬毒物分析・微細な工業製品の鑑定・指紋鑑定について、第一線の研究者の方々に最先端の講演をしていただき、科学捜査における分析化学の果たす役割について討論します。

(依頼講演)
 
浅野 水辺 愛媛大学 法医解剖における薬物分析と中毒診断
桑山 健次 警察庁 マイクロ分画分析による毛髪及び爪内の薬物分布測定
阪柳 正隆 神奈川県警察 犯罪捜査における微細証拠サンプルと分析化学
日比野 和人 警察庁 犯罪現場における指紋検出の実際と将来展望


4.医薬品・バイオマーカーを定量し、疾患を可視化する分析化学

オーガナイザー:上田真史(岡山大)、大山要(長崎大)

(趣旨)
病気になると、分子・細胞・組織レベルで様々な異常が生じます。適切な治療を行うためには、それらの異常を精度高く検出する必要があり、LC-MS/MSや生体イメージングなどの様々な分析技術が使われています。また、治療に用いられる薬についても、体内分布や濃度を分析し、有効性と安全性が担保された状態で使用される必要があります。本シンポジウムでは、医療・薬学領域で利用されている様々な分析技術について、インビトロからインビボまで、診断から治療までを包括的に討論する予定です。


(依頼講演)
巴山 忠 福岡大学 正確な定量を指向した生体関連化合物のLC-MS/MS分析と実試料測定への応用
前川 正充 東北大学 LC-MS/MSによる網羅的分子定量を活用した個別化薬物療法と化学診断/病態解析
花岡 健二郎 慶應義塾大学 新規蛍光団の創製による近赤外蛍光プローブの開発と疾患イメージングへの応用
岡田 智 東京科学大学 次世代治療・診断に資するMRIプローブの開発
上田 真史 岡山大学 腫瘍の質的診断のための放射性分子プローブの開発

 

5.生体試料を対象とする分離分析でのデータサイエンスの活用

オーガナイザー: 高柳俊夫(徳島大)、轟木堅一郎(静岡県立大)

(趣旨)
クロマトグラフィーなどの分離分析は、生体試料中の多成分を同時定量する上で有効な手法です。高性能な分離カラムを用いた精密分離や質量分析との組み合わせにより、同時定量が可能な物質数が拡大され、各種オミクス解析における有用な分析ツールとなっています。また、空間的サンプリング手法を併用することで、標的物質の多次元分布を把握することも可能です。このような複雑な物質情報の網羅的な分離分析において、データサイエンスの活用は解析を強力に推進することができます。そこで、この分野の最前線で活躍されている4名の先生方をお迎えして、分離分析におけるデータサイエンスの実践例をご紹介いただきます。


(依頼講演)
杉本 昌弘 慶應義塾大学 メタボロームの品質制御のためのデータ解析
杉山 栄二 名城大学 空間メタボロミクスの有効活用
金澤 慎司 島津製作所 AI技術がもたらす一歩進んだデータ解析
"Peakintelligence for LC"のご紹介
井之上 浩一 立命館大学 ケミカル・タグを用いたメタボロミクス
 

6.発酵と酒と泡と分析化学

オーガナイザー: 安達健太(山口大)、河野誠(カワノラボ)、小﨑大輔(高知大)

(趣旨)
発酵は微生物が織りなす自然の技術であり、酒類製造では独自の風味や味わいを生み出す鍵です。また、発酵過程における泡の形成や安定性は、風味や製造効率に密接に関わる重要な要素です。近年、ナノバブルや流体学の観点から泡の物理化学的特性が解明され、環境負荷低減や製品品質向上への応用が注目されています。さらに、人工知能(AI)を活用した分析・解析技術の進展により、複雑な発酵プロセスの理解が飛躍的に進んでいます。本討論では、伝統的知識と先端分析・計測技術の融合が新しい価値を創出する機会となることを期待します。

(依頼講演)
佐藤 雅英 サッポロビール株式会社 泡の再生力の評価について
小林 拓嗣 酒類総合研究所 清酒成分の網羅的分析方法
藤岡 沙都子 慶應義塾大学 気泡流によるスロッシングの流動解析と物質移動への影響
池添 泰弘 日本工業大学 準弾性レーザー散乱法を用いた生体分子の液体界面での相互作用と自己組織化に関する研究