5:15 PM - 5:30 PM
[AG-01] 和牛の生産性向上に関する形質間の遺伝的関係および因果構造の解明に関する研究
長年にわたる和牛の脂肪交雑に重点を置いた改良は,和牛の特徴である「霜降り」の程度を飛躍的に向上させた一方で,その弊害や新たな形質の重要性が認識されるようになってきた.例えば,濃厚飼料の多給は内臓疾病を誘発し,牛肉中の過度な粗脂肪含量は食味を悪化させる一因とされている.このようなことから,近年,肉の食味に関係すると考えられる脂肪酸組成への関心が高まっている.さらに,肉用牛生産者の高齢化や子牛の生産頭数減少による子牛価格の高騰が問題となっている中,気質や個体の扱い易さなどの管理形質や,繁殖能力に対する育種改良の重要性が認識されるようになってきた.脂肪酸組成や気質のように,育種改良の対象となっていなかった新たな形質を選抜形質に加える場合,これまで改良の対象とされてきた経済形質に悪影響を及ぼさないよう,形質間の遺伝的な関係を明らかにすることが重要である.また,改良効率を高めるためには,形質間の「相関関係」だけでなく「因果関係」についても考慮する必要がある.本研究では,このような問題に対処すべく,生産性向上に関する形質に対する改良の可能性を明らかにするとともに,因果推定や構造方程式モデルの手法を取り入れた育種改良の可能性について検討した.
1.内臓疾病による経済的損失の推定
内臓疾病の罹患による肝臓と大腸廃棄に伴う直接的な経済的損失を推定し,これによる肉用牛産業における経済的損失が年間約1.5億円に上ることを明らかにした.肝多発性巣状壊死による枝肉形質への影響はみられなかったが,脂肪壊死および大腸炎により枝肉重量等の減少がみられた.この枝肉重量の減少による経済的損失は産業全体で約12.4億円と推定され,疾病罹患に伴う枝肉重量の低下による間接的な損失の大きさを明らかにした.
2.生産性向上に関する形質間の遺伝的関係の解明
経済的損失を引き起こす和牛の内蔵疾病の遺伝性について解析し,内蔵疾病が遺伝的に改良可能であることを示した.また,脂肪壊死や大腸炎と肉量に関する枝肉形質との間に負の遺伝相関が認められ,内臓疾病と産肉性が同時に改良可能であることを明らかにした.
肉質格付形質と脂肪酸組成との遺伝的関係を解析した結果,脂肪色と脂肪の不飽和度との間に高い正の遺伝相関が認められ,脂肪の色による不飽和度の間接的な改良の有効性が示された.しかし,このことは同時に,不飽和度の選抜により,脂肪色が暗く(黄色く)なることを示しており,枝肉市場では脂肪が黄色い肉は好まれないことから,不飽和度と脂肪色とのバランスを考慮した改良が必要であると考えられた.
子牛市場における子牛の気質の遺伝性について解析した結果,遺伝率は低いものの,気質の遺伝的改良の可能性が示された.また,気質と枝肉重量やバラの厚さには強く好ましい遺伝相関が認められ,脂肪交雑とは相関がみられなかったことから,気質と産肉性の同時改良も可能であると考えられた.さらに,子牛市場での競売時に気質を評価する方法は,既存設備の下でも短時間で多量のデータ収集が可能であることから,低コストで画期的な気質データの収集方法になり得ることが示唆された.
3.形質間の表型因果構造の検索と因果効果の推定
肉質格付形質と脂肪酸組成間で因果構造を推定し,統計的に検出された因果構造を基に構造方程式モデルを構築して形質間の因果効果を推定した結果,不飽和度の上昇により脂肪交雑が向上し,肉色が暗くなると脂肪交雑も低下する効果がみられた.これらの結果から,不飽和度の高い飼料給与やビタミンAコントロールなどによる人為的操作は脂肪交雑に影響を及ぼすことが示され,従来の多形質モデルによる評価では脂肪交雑における改良量の低下を招く危険性が示唆された.
同様に,繁殖形質(妊娠期間と分娩難易)と産子の生時体重・体尺測定値(サイズ)間で検出された因果構造を基に推定した因果効果から,妊娠期間が長くなると産子のサイズが大きくなり,サイズがそれぞれ1単位大きくなると難産が約1%増加するという因果関係を明らかにした.
以上の研究は,和牛の改良現場において今後対応が必要な形質と従来の経済形質との関係を明らかにし,遺伝的改良の可能性を示した.また,育種改良の分野に導入を試みた因果構造解析では,従来の相関関係からは得られない新たな情報や知見を得ることができたことから,今後,育種改良の現場での活用が期待される.
1.内臓疾病による経済的損失の推定
内臓疾病の罹患による肝臓と大腸廃棄に伴う直接的な経済的損失を推定し,これによる肉用牛産業における経済的損失が年間約1.5億円に上ることを明らかにした.肝多発性巣状壊死による枝肉形質への影響はみられなかったが,脂肪壊死および大腸炎により枝肉重量等の減少がみられた.この枝肉重量の減少による経済的損失は産業全体で約12.4億円と推定され,疾病罹患に伴う枝肉重量の低下による間接的な損失の大きさを明らかにした.
2.生産性向上に関する形質間の遺伝的関係の解明
経済的損失を引き起こす和牛の内蔵疾病の遺伝性について解析し,内蔵疾病が遺伝的に改良可能であることを示した.また,脂肪壊死や大腸炎と肉量に関する枝肉形質との間に負の遺伝相関が認められ,内臓疾病と産肉性が同時に改良可能であることを明らかにした.
肉質格付形質と脂肪酸組成との遺伝的関係を解析した結果,脂肪色と脂肪の不飽和度との間に高い正の遺伝相関が認められ,脂肪の色による不飽和度の間接的な改良の有効性が示された.しかし,このことは同時に,不飽和度の選抜により,脂肪色が暗く(黄色く)なることを示しており,枝肉市場では脂肪が黄色い肉は好まれないことから,不飽和度と脂肪色とのバランスを考慮した改良が必要であると考えられた.
子牛市場における子牛の気質の遺伝性について解析した結果,遺伝率は低いものの,気質の遺伝的改良の可能性が示された.また,気質と枝肉重量やバラの厚さには強く好ましい遺伝相関が認められ,脂肪交雑とは相関がみられなかったことから,気質と産肉性の同時改良も可能であると考えられた.さらに,子牛市場での競売時に気質を評価する方法は,既存設備の下でも短時間で多量のデータ収集が可能であることから,低コストで画期的な気質データの収集方法になり得ることが示唆された.
3.形質間の表型因果構造の検索と因果効果の推定
肉質格付形質と脂肪酸組成間で因果構造を推定し,統計的に検出された因果構造を基に構造方程式モデルを構築して形質間の因果効果を推定した結果,不飽和度の上昇により脂肪交雑が向上し,肉色が暗くなると脂肪交雑も低下する効果がみられた.これらの結果から,不飽和度の高い飼料給与やビタミンAコントロールなどによる人為的操作は脂肪交雑に影響を及ぼすことが示され,従来の多形質モデルによる評価では脂肪交雑における改良量の低下を招く危険性が示唆された.
同様に,繁殖形質(妊娠期間と分娩難易)と産子の生時体重・体尺測定値(サイズ)間で検出された因果構造を基に推定した因果効果から,妊娠期間が長くなると産子のサイズが大きくなり,サイズがそれぞれ1単位大きくなると難産が約1%増加するという因果関係を明らかにした.
以上の研究は,和牛の改良現場において今後対応が必要な形質と従来の経済形質との関係を明らかにし,遺伝的改良の可能性を示した.また,育種改良の分野に導入を試みた因果構造解析では,従来の相関関係からは得られない新たな情報や知見を得ることができたことから,今後,育種改良の現場での活用が期待される.