日本畜産学会第125回大会

講演情報

シンポジウム

[S2-01_03] 日本畜産学会第125回大会企画シンポジウム「動物共生科学の創生による,ヒト健康社会の実現」

2019年3月29日(金) 13:30 〜 15:50 第V会場 (8号館8401講義室)

日本畜産学会第125回大会企画シンポジウム
「動物共生科学の創生による,ヒト健康社会の実現」

日  時:2019年3月29日(金)13:30~15:30
場  所:第X会場 8号館8041講義室

本学の「動物共生科学の創生による,ヒト健康社会の実現」がH28年度文部科学省「私立大学ブランディング事業」に採択されました.本事業は,『ヒトと動物の共生システム』を科学的に解明し,その成り立ちを介してヒトの健康社会の実現に貢献することを目的とするものです.この目的のために,ヒトと動物における①認知的インタラクション解析②共進化遺伝子の同定③微生物クロストークの3つのテーマを設定し,各テーマごとに研究プロジェクトを形成し,合計14の研究プロジェクトが有機的に連携を取りながら研究をすすめています.本シンポジウムではこの3つのテーマからそれぞれ3名の先生をお招きしてご講演いただきます.ヒトとイヌが共生の場面でどのような認知能力を介してつながるのか,その認知能力の形成における不安やストレス応答を軽減させるオキシトシンの役割について,アミロイド線維形成能の高いSerum Amyloid A(SAA)を介したヒトを含めた哺乳類に共通するAAアミロイド症の病理発生機序について,ペットを乳児期に飼育すると学童期のアレルギー罹患率が低いことが報告され,その機序としてペットの細菌叢がヒトのアレルギー発症抑制に関与する可能性について,ご紹介します.皆様のご参加と活発なご議論をお待ちしております.

1.S2-01 「ヒトとイヌの共生を支える社会認知能力」
菊水健史(麻布大学獣医学部 教授)

2.S2-02 「比較病理学から考えるAAアミロイド症の病理発生機序」
上家潤一(麻布大学獣医学部 准教授)

3.S2-03 「ヒトと動物の共生社会におけるアレルギー研究」
阪口雅弘(麻布大学獣医学部 教授)

[S2-01] ヒトとイヌの共生を支える社会認知能力

菊水 健史 (麻布大学 獣医学部)

イヌは飼い主を特別視し,慕い,そのまれなる忠誠心をもって,飼い主との特別な関係を構築する.世界にはさまざまな動物が存在するが,イヌほどヒトに近く,親和的に,そしてあうんの呼吸でともに生活できる動物はほかにはいない.それを支える認知機能が明らかとなってきた.イヌはオオカミと比較し,ヒトからの視線や指さしによるシグナルを読み取る能力が長けていること,そしてその能力が進化の過程で獲得してきた能力であった.興味深いことに,このようなヒトとのやり取りの能力は,ヒトと近縁であるチンパンジーでは困難である.故,イヌはヒトとの生活を共にすることで,この能力を獲得したと考えられる.それだけではない.イヌはヒトと視線を介して理解し合えるだけでなく,絆の形成も可能となった.イヌが飼い主と見つめ合うことで,お互いにオキシトシンが分泌された.イヌとの触れ合いや視線によるコミュニケーションが飼い主のオキシトシン分泌量を上昇させることから,オキシトシンという分子で飼い主とイヌがつながったと言える.それはイヌがヒトとともに歩いてきた3万年以上も続くヒトとイヌの共進化の賜物といえるだろう.
一方,イヌとの暮らしがもたらすヒトの心身への効果は,小児アレルギーの抑制,うつ病や不安症の改善,自閉症児の症状回復,認知症の改善など,枚挙に暇がない.しかし,イヌとの生活がなぜヒトの心身に医学的恩恵をもたらすかのメカニズムは不明である.最も有力な候補分子として上記のオキシトシンがあげられる.オキシトシンは不安やうつ病,ストレス応答を軽減させ,過剰な自律神経系の興奮を抑える効果を持つ.社会性に障害を抱える自閉症児への症状改善効果も知られている.また,脊髄後根神経節に作用し鎮痛効果をもつことや,免疫系に作用して抗炎症作用を示すこと,更に外傷に対する治癒促進効果も併せ持つ.今回,ヒトとイヌが共生の場面でどのような認知能力を介してつながるのか,そしてそこにおけるオキシトシンの役割を紹介する.