2:00 PM - 2:30 PM
[SY-I-03] 黒毛和種繁殖牛の飼養管理が受精卵移植受胎率に及ぼす影響
家畜改良センター鳥取牧場(以下鳥取牧場)では,主に受精卵移植 (ET)技術を用いて黒毛和種の育種改良を行なっているが,過去にはET受胎率が安定せず,年間のET受胎率は約30-40%と低かった.このため繁殖性の向上を目指し,乳牛で用いられてきた代謝プロファイルテスト (MPT)の考えを取り入れ,飼養管理の改善を進めた結果,ET受胎率は約70%で安定してきた.ただし,MPTは牛群の栄養状態の指標でしかないため,飼養管理の改善を進めることを前提として実施することが基本となる.本発表では,鳥取牧場におけるMPTを用いたET受胎率向上への取り組みを紹介する.
・飼養管理の改善
1.飼料分析と飼料設計
黒毛和種繁殖牛の飼料は粗飼料が主体であり,飼料設計が実施されていないことが多い.粗飼料の成分は草種やステージ,土壌,肥培管理により大きく変動するため,給与する粗飼料は飼料分析が必要となり,飼料分析結果を基に飼料設計を行う必要がある.
2.乾物摂取量の均一化
栄養状態の改善により繁殖性を向上させるためには,牛群内の各個体の栄養状態を均一化する必要がある.群飼育の場合,スタンチョン等を利用した乾物摂取量(DMI)の均一化は,飼料設計が各個体に正確に伝わりやすくなるため,牛群内の栄養状態のバラツキが減少する傾向がある.
3.飼料給与の記録
飼養管理では,飼料設計だけでなくまた,飼料設計と牛の摂取栄養量が一致していることを確認することが重要となる.毎日の飼料給与量や摂取栄養量が把握できない場合でも,定期的に調べて記録しておくことが大切と考えられる.
4.牛群編成
同じ乾乳期の牛であっても,必要な栄養量は体重によって異なる.また,同じ体重であってもボディ・コンディション・スコア(BCS)が異なれば,飼料設計は異なる.その他,妊娠末期や泌乳期には適切な増飼が必要となる.このことから,群飼育の場合には適切な牛群編成,すなわち繁殖ステージや牛の体格等にあわせて牛群編成をする必要がある.
・黒毛和種繁殖牛におけるMPTの特徴
過去10年以上にわたりMPTを利用しながら飼養管理や繁殖管理を実施してきた.当初は粗蛋白質の過不足等が問題になっていたが,MPTを継続していくと新たな問題も見いだされるようになる.その中でも繁殖牛は過肥や潜在性ケトーシスが多くみられている.血液生化学検査はエネルギー不足には敏感に反応する項目が多い一方で,過肥牛群の場合は肝障害等の項目で異常が出るのみで,血液検査だけでは判定しにくいケースもある.このような場合にはBCSのチェックが有効となる.
・受精卵移植受胎率
牛群の栄養状態が安定し,それに伴い繁殖成績も高位安定してきたため,飼養管理以外の受精卵移植の受胎率に影響する要因を調査した.鳥取牧場での過去2年間のETデータを調べた結果,受卵牛の泌乳の有無や受精卵の種類 (新鮮卵,凍結卵),術者によるET受胎率への影響は認められなかった.また,鳥取牧場ではET時に黄体の良否による受卵牛の選定はしていない.このことから,黒毛和種では一定レベルの飼養管理を施された牛群では,繁殖牛は受胎しやすい状態になると考えられた.
・その他
黒毛和種繁殖牛群におけるMPT利用は,繁殖性だけでなく生産された子牛への影響や,親付き哺乳子牛への影響も報告されている.また,MPTは飼養管理の変化による牛の生理的状況をある程度把握できることから,給与飼料の評価や放牧地の評価も試みられている.
略歴:
独立行政法人家畜改良センター種畜課課長補佐.琉球大学非常勤講師.1999年より家畜改良センター鳥取牧場に勤務し,黒毛和種繁殖牛群の繁殖性向上のための飼養管理改善に取り組む.
・飼養管理の改善
1.飼料分析と飼料設計
黒毛和種繁殖牛の飼料は粗飼料が主体であり,飼料設計が実施されていないことが多い.粗飼料の成分は草種やステージ,土壌,肥培管理により大きく変動するため,給与する粗飼料は飼料分析が必要となり,飼料分析結果を基に飼料設計を行う必要がある.
2.乾物摂取量の均一化
栄養状態の改善により繁殖性を向上させるためには,牛群内の各個体の栄養状態を均一化する必要がある.群飼育の場合,スタンチョン等を利用した乾物摂取量(DMI)の均一化は,飼料設計が各個体に正確に伝わりやすくなるため,牛群内の栄養状態のバラツキが減少する傾向がある.
3.飼料給与の記録
飼養管理では,飼料設計だけでなくまた,飼料設計と牛の摂取栄養量が一致していることを確認することが重要となる.毎日の飼料給与量や摂取栄養量が把握できない場合でも,定期的に調べて記録しておくことが大切と考えられる.
4.牛群編成
同じ乾乳期の牛であっても,必要な栄養量は体重によって異なる.また,同じ体重であってもボディ・コンディション・スコア(BCS)が異なれば,飼料設計は異なる.その他,妊娠末期や泌乳期には適切な増飼が必要となる.このことから,群飼育の場合には適切な牛群編成,すなわち繁殖ステージや牛の体格等にあわせて牛群編成をする必要がある.
・黒毛和種繁殖牛におけるMPTの特徴
過去10年以上にわたりMPTを利用しながら飼養管理や繁殖管理を実施してきた.当初は粗蛋白質の過不足等が問題になっていたが,MPTを継続していくと新たな問題も見いだされるようになる.その中でも繁殖牛は過肥や潜在性ケトーシスが多くみられている.血液生化学検査はエネルギー不足には敏感に反応する項目が多い一方で,過肥牛群の場合は肝障害等の項目で異常が出るのみで,血液検査だけでは判定しにくいケースもある.このような場合にはBCSのチェックが有効となる.
・受精卵移植受胎率
牛群の栄養状態が安定し,それに伴い繁殖成績も高位安定してきたため,飼養管理以外の受精卵移植の受胎率に影響する要因を調査した.鳥取牧場での過去2年間のETデータを調べた結果,受卵牛の泌乳の有無や受精卵の種類 (新鮮卵,凍結卵),術者によるET受胎率への影響は認められなかった.また,鳥取牧場ではET時に黄体の良否による受卵牛の選定はしていない.このことから,黒毛和種では一定レベルの飼養管理を施された牛群では,繁殖牛は受胎しやすい状態になると考えられた.
・その他
黒毛和種繁殖牛群におけるMPT利用は,繁殖性だけでなく生産された子牛への影響や,親付き哺乳子牛への影響も報告されている.また,MPTは飼養管理の変化による牛の生理的状況をある程度把握できることから,給与飼料の評価や放牧地の評価も試みられている.
略歴:
独立行政法人家畜改良センター種畜課課長補佐.琉球大学非常勤講師.1999年より家畜改良センター鳥取牧場に勤務し,黒毛和種繁殖牛群の繁殖性向上のための飼養管理改善に取り組む.