2:30 PM - 3:00 PM
[SY-I-04] ウシ黄体血流を指標とした受胎性評価
はじめに
ウシの妊娠成立と維持には機能的な黄体が存在し,黄体からのプロジェステロン(P4)の持続的な分泌が必要である.これまで,直腸検査や超音波画像診断装置により測定した黄体サイズから血中P4濃度を評価してきた.近年,非侵襲的に血流の検査が可能な超音波ドプラ法を用い,黄体の血流を指標とした新たな機能評価が注目されている.本講演では,黄体の血流と機能の関係,ならびに胚移植(ET)における受胎性評価への適用について概説する.
黄体の血管走行
黄体は血管が豊富な組織の一つであり,卵巣動脈から分岐する螺旋動脈を基部とし,黄体を取り囲むように血管網が発達している.排卵後,内卵胞膜から発達した血管が排卵窩へと侵入し血管網を構築して黄体細胞へ血液を供給する.この血管新生は黄体細胞でのP4合成に必要なコレステロールの輸送とP4の全身循環に必須である.
黄体血流と機能
黄体サイズと血中P4濃度は正の相関があり,黄体発育に伴い両者は増加する.しかし,黄体サイズは発情後12日に最大となるが,P4濃度は14日まで増加し,黄体退行期では先にP4が減少し,次いで黄体サイズが減少する.一方,黄体血流面積(最大直径における血流面積)は黄体発育に伴い増加し14日に最大となり,16~17日に著しく増加した後,急激に減少する.黄体発育期や退行期では,黄体血流面積とP4濃度の増減が同期するため,超音波ドプラ法を用いた血流観察により機能的変化を鋭敏に評価できる.しかし,中期黄体期 (発情後9~12日)では黄体血流面積とP4濃度に相関が無いことから,黄体サイズが機能評価の指標としては優れる.
黄体血流と受胎性
近年,性判別精液の普及に伴う安定的な後継牛の生産や黒毛和種子牛の販売価格高騰から,乳用牛への黒毛和種胚の移植が増加している.これまで,直腸検査や超音波画像診断装置または血中P4濃度による受胚牛の選定が行われてきたが,受胎率の向上には至っていない.そこで本研究では,黄体機能を反映する黄体血流と受胎性との関係,ならびにETにおける受胎性評価への適用を調べた.
分娩後50日以上経過したホルスタイン種経産牛58頭(平均産次数2.5 ± 1.7産,平均分娩後日数131.6 ± 82.3日)を供試し,発情後0,3,5,7及び14日に採血,超音波画像診断装置を用いて黄体と卵胞の形態及び超音波ドプラ法で黄体血流を調べた.7日に黒毛和種胚を移植,30日に妊娠診断をした後,受胎・不受胎群に分類し,共存卵胞,黄体面積,黄体血流面積(BFA),螺旋動脈基部の血流速度(TAMV)及び血中P4濃度を比較した.その結果,共存卵胞,黄体面積及び血中P4濃度は両群間で有意な差は無かった.一方,受胎群のBFAは高く推移し,不受胎群と比べて発情後7及び14日で有意(p<0.01)に高かった.受胎群のTAMVは高く推移する傾向が認められ,不受胎群と比べて14日で有意(p<0.01)に高かった.また,ロジスティック回帰分析より受胎に影響を及ぼす要因は,7日ではBFA,14日ではBFA及びTAMVであった.さらに,ROC(受信者動作特性)解析より受胎性評価に有用な因子は,7日ではBFA,14日ではBFA及びTAMVであり,カットオフ値はそれぞれ0.43 cm2(感度79.4%,特異度75.0%),0.63 cm2及び50.6 cm/s(感度85.3%,特異度91.7%)となった.以上の結果から,受胎群では発情後7及び14日のBFA及びTAMVは高く,また,これらを指標とすることで受胚牛の受胎性が高感度・高特異度で評価可能なことが示された.
略歴:
平成17年3月 日本獣医生命科学大学 卒業
平成17年4月 宮城県農業共済組合 入組
平成29年3月 岐阜大学大学院 連合獣医学研究科 博士課程 卒業
ウシの妊娠成立と維持には機能的な黄体が存在し,黄体からのプロジェステロン(P4)の持続的な分泌が必要である.これまで,直腸検査や超音波画像診断装置により測定した黄体サイズから血中P4濃度を評価してきた.近年,非侵襲的に血流の検査が可能な超音波ドプラ法を用い,黄体の血流を指標とした新たな機能評価が注目されている.本講演では,黄体の血流と機能の関係,ならびに胚移植(ET)における受胎性評価への適用について概説する.
黄体の血管走行
黄体は血管が豊富な組織の一つであり,卵巣動脈から分岐する螺旋動脈を基部とし,黄体を取り囲むように血管網が発達している.排卵後,内卵胞膜から発達した血管が排卵窩へと侵入し血管網を構築して黄体細胞へ血液を供給する.この血管新生は黄体細胞でのP4合成に必要なコレステロールの輸送とP4の全身循環に必須である.
黄体血流と機能
黄体サイズと血中P4濃度は正の相関があり,黄体発育に伴い両者は増加する.しかし,黄体サイズは発情後12日に最大となるが,P4濃度は14日まで増加し,黄体退行期では先にP4が減少し,次いで黄体サイズが減少する.一方,黄体血流面積(最大直径における血流面積)は黄体発育に伴い増加し14日に最大となり,16~17日に著しく増加した後,急激に減少する.黄体発育期や退行期では,黄体血流面積とP4濃度の増減が同期するため,超音波ドプラ法を用いた血流観察により機能的変化を鋭敏に評価できる.しかし,中期黄体期 (発情後9~12日)では黄体血流面積とP4濃度に相関が無いことから,黄体サイズが機能評価の指標としては優れる.
黄体血流と受胎性
近年,性判別精液の普及に伴う安定的な後継牛の生産や黒毛和種子牛の販売価格高騰から,乳用牛への黒毛和種胚の移植が増加している.これまで,直腸検査や超音波画像診断装置または血中P4濃度による受胚牛の選定が行われてきたが,受胎率の向上には至っていない.そこで本研究では,黄体機能を反映する黄体血流と受胎性との関係,ならびにETにおける受胎性評価への適用を調べた.
分娩後50日以上経過したホルスタイン種経産牛58頭(平均産次数2.5 ± 1.7産,平均分娩後日数131.6 ± 82.3日)を供試し,発情後0,3,5,7及び14日に採血,超音波画像診断装置を用いて黄体と卵胞の形態及び超音波ドプラ法で黄体血流を調べた.7日に黒毛和種胚を移植,30日に妊娠診断をした後,受胎・不受胎群に分類し,共存卵胞,黄体面積,黄体血流面積(BFA),螺旋動脈基部の血流速度(TAMV)及び血中P4濃度を比較した.その結果,共存卵胞,黄体面積及び血中P4濃度は両群間で有意な差は無かった.一方,受胎群のBFAは高く推移し,不受胎群と比べて発情後7及び14日で有意(p<0.01)に高かった.受胎群のTAMVは高く推移する傾向が認められ,不受胎群と比べて14日で有意(p<0.01)に高かった.また,ロジスティック回帰分析より受胎に影響を及ぼす要因は,7日ではBFA,14日ではBFA及びTAMVであった.さらに,ROC(受信者動作特性)解析より受胎性評価に有用な因子は,7日ではBFA,14日ではBFA及びTAMVであり,カットオフ値はそれぞれ0.43 cm2(感度79.4%,特異度75.0%),0.63 cm2及び50.6 cm/s(感度85.3%,特異度91.7%)となった.以上の結果から,受胎群では発情後7及び14日のBFA及びTAMVは高く,また,これらを指標とすることで受胚牛の受胎性が高感度・高特異度で評価可能なことが示された.
略歴:
平成17年3月 日本獣医生命科学大学 卒業
平成17年4月 宮城県農業共済組合 入組
平成29年3月 岐阜大学大学院 連合獣医学研究科 博士課程 卒業