The 126th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

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共催シンポジウム "畜産研究の成果を獣医臨床フィールドへ"

肉牛生産と疾病管理の最前線

Thu. Sep 19, 2019 3:15 PM - 5:15 PM 第I会場 (ぽらんホール(8番講義室))

座長:岩本 英治(兵庫県立農林水産技術総合センター)、一條 俊浩(岩手大学)

3:15 PM - 3:45 PM

[SY-II-01] ブランドを支える試験研究

*岩本 英治1 (1. 兵庫農技総セ)

 牛肉の美味しさを決定する要因には,食感(やわらかさ,ジューシーさなど),味,香りがあり,これらには脂肪(脂肪交雑)の量や質,物理性,呈味成分および香気成分が大きく関与する.和牛肉は海外牛肉に比べてサシ・霜降りが多く,やわらかくてジューシーで,旨味を呈する良質なアミノ酸や脂肪酸が多い.さらに,近年,和牛肉特有の「脂っぽい甘い香り」いわゆる「和牛香」の存在が報告されている.こうした特徴を持つ和牛肉は海外牛肉に比べて消費者からは美味しいと評価され,高価で取引されている.今回は和牛肉のブランド牛肉(系統)の一つである但馬牛・神戸ビーフについて紹介し,「ブランドを支える試験研究」について考えてみたいと思う.
産肉能力の改良と遺伝的多様性の確保
 但馬牛は他系統と交流しない「閉鎖育種」により改良を行ってきた.そのため,克服しなければならない課題が2つある.1つは他の系統以上に枝肉重量や脂肪交雑といった産肉能力を改良すること,もう1つは遺伝的多様性を確保することである.産肉能力の改良では,現在の種雄牛造成はすべて「育種価」を活用した県による指定交配で行い,その結果,令和元年度の基幹種雄牛はいずれも但馬牛を代表するかつてのエースを上回る能力を備えている.
 一方,遺伝的多様性については,黒毛和種が我が国固有の牛であることから黒毛和種そのものが日本を枠とした「閉鎖育種」と考えてもよい.兵庫県で特定の血統に交配が偏っているように,全国でも特定の血統だけが利用され,遺伝的多様性を失いつつあるのが現状である.兵庫県は神戸大学と共同で開発した「ジーンドロッピング」という手法により,貴重な始祖個体遺伝子を持つ可能性の高い現存個体を検出することで但馬牛を系統分類し,これらを活用した系統造成により遺伝的多様性を確保している.
 兵庫県は,今後ともこれらの取り組みを継続し,但馬牛の産肉能力と遺伝的多様性を維持していくこととしている.
美味しさの改良
 現在の牛肉に求められる消費者嗜好は多様化し,過度な脂肪交雑を敬遠する声も少なくなく,和牛肉には適度な脂肪交雑に加えて「美味しさ」が求められている.そのため,生産者および消費者からは「美味しさ」を付加するための研究やそれらを評価する技術開発および数値化が求められている.
 近年,光学測定法および画像解析法の研究が進み,「食肉脂質測定装置」や「枝肉撮影装置」が開発され,牛肉の脂質(脂肪酸組成)や霜降りの細かさ(小ザシ)の簡易測定が可能となった.兵庫県ではこれらの装置をいち早く活用し,現在では但馬牛のほとんどが出荷される神戸,加古川,姫路食肉市場に装置を整備し,恒常的に測定値を測定・表示することにより,但馬牛の美味しさのPRや改良につなげている.
 現在,兵庫県は神戸大学や神戸肉流通推進協議会,また,畜産業界以外の業種とのコンソーシアム体制を構築し,牛肉の呈味成分や香気成分を幅広く解析し,但馬牛・神戸ビーフの美味しさに寄与する成分を特定し,但馬牛の美味しさのさらなるPRや改良につなげていくこととしている.

略歴:
1994年3月 酪農学園大学酪農学部 獣医学課程修了
1994年4月 兵庫県立中央農業技術センター 畜産試験場 研究員
2003年4月 兵庫県立農林水産技術総合センター 畜産技術センター 主任研究員
2010年3月 神戸大学大学院農学研究科資源生命科学専攻博士課程後期課程修了,博士(農学)
2016年4月 兵庫県立農林水産技術総合センター 畜産技術センター 上席研究員
2018年4月 兵庫県立農林水産技術総合センター 畜産技術センター 課長
2019年4月 神戸大学客員准教授(兼務)現在に至る