The 126th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

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共催シンポジウム "畜産研究の成果を獣医臨床フィールドへ"

乳牛の飼養管理と疾病制御

Fri. Sep 20, 2019 9:00 AM - 11:10 AM 第I会場 (ぽらんホール(8番講義室))

座長:櫛引 史郎(農研機構畜産研究部門)、佐藤 繁(岩手大学)

10:10 AM - 10:40 AM

[SY-III-03] 離乳期子牛のSARAと粗飼料給与の重要性

*竹村 恵1,2 (1. 山形庄内家保、2. 筑波大院生命環境)

1.はじめに
 亜急性第一胃アシドーシス(SARA)は,成牛において“1日に180分を超えて第一胃液pHが5.6を下回る状態”と定義される(Gozho et al., 2005).SARAは乾物摂取量,乳量,および乳脂肪率の減少,下痢,蹄葉炎など様々な病態との関連が報告されている.また,これら病態を引き起こす要因として第一胃液エンドトキシン(LPS)活性の増加,ならびに血中移行と炎症惹起という一連の反応が指摘されているが,報告により結果は一致していない.近年,離乳期の子牛においても成牛と同様に第一胃液pHの低下が起きることが明らかになった.離乳の前後には,発育停滞を防ぎ固形飼料への移行を促すためにスターターが多給される.離乳移行期における易発酵性飼料の多給と,それに伴う粗飼料摂取量の低下は第一胃液pHを低下させる(Laarman et al., 2011).しかし,子牛におけるSARAの定義はない,つまり,離乳期の第一胃液pHの低下が生体へ及ぼす影響は明らかとなっていない.そこで我々は,離乳前後を粗飼料無給与で飼養し,第一胃液pH,胃内発酵,および代謝・内分泌機能に及ぼす影響を検討した.
2.乾草給与の有無が第一胃液pH,代謝・内分泌機能に及ぼす影響
 材料と方法:第一胃にフィステルを装着したホルスタイン種雄子牛16頭を供試した.試験期間は7週齢から10週齢(離乳前1週から離乳後3週)までとし,試験開始時に子牛を粗飼料併給区(粗飼料区)および粗飼料無給与区(スターター区)に配置した.代用乳(8週齢の離乳まで),スターター,および乾草は1日2回給与し,週齢にあわせて増量した.試験期間における乾物給与量は両区等量になるよう設定した.第一胃液pHは研究用に開発された無線伝送式pHセンサー(Y-COWS; 山形東亜DKK株式会社)を用いて10分間隔で連続測定し,胃液および血液は離乳前1週,離乳時,離乳後1週,および3週の計4回,フィステルおよび頚静脈から採材した.
 結果:粗飼料区の第一胃液pHは採食後3時間ほどかけて低下した後増加に転じ,翌朝には前日朝と同程度まで回復するという日内変化を示した.一方,スターター区の第一胃液pHは採食に伴う変化が認められず,粗飼料区よりも低値(P < 0.05)のまま持続した.成牛のSARA診断基準によれば,スターター区は試験期間を通してSARA状態を継続した.スターター区の第一胃液中プロピオン酸割合は離乳後に粗飼料区よりも有意な高値を示し,スターター区のLPS活性は粗飼料区よりも高い傾向を示した(P < 0.1).血漿成分では,離乳後にスターター区の血漿中AST,ALP濃度が粗飼料区よりも有意に高くなった.また,スターター区の成長ホルモン(GH)濃度は粗飼料区よりも低い傾向が認められた(P < 0.1).
3.離乳期における粗飼料給与の重要性
 離乳の前後に粗飼料無給与で飼養すると,第一胃液pHは低下したまま持続し,SARA状態となった.この第一胃液pHの持続的な低値は,第一胃液プロピオン酸割合やLPS活性の増加を伴うだけでなく,血漿中AST,ALP濃度を増加させ,肝臓へ炎症的な影響が示唆された.さらに,成長に関与する主要な内分泌因子であるGHの血漿中濃度は粗飼料無給与により低下する傾向にあった.試験期間における両区の日増体重に差は認められなかったが,生産性に対する長期的な影響は不明である.
 以上から,離乳前後における粗飼料の給与は,第一胃液pHの採食に伴う日内変化を誘導してSARAを防ぐだけでなく,第一胃内発酵を含めた健全な代謝・内分泌機能を維持するうえで重要であることが明らかとなった.
 本試験の詳細はJournal of Animal Science (2019; 97: 2220–2229)に掲載.
4.謝辞
 本試験の計画および遂行,論文作成にあたり終始ご懇切なるご教示とご校閲を戴きました筑波大学大学院生命環境科学研究科先端農業技術科学専攻の櫛引史郎教授ならびに岩手大学農学部共同獣医学科の佐藤繁教授に深甚なる万謝の意を表します.また,試験遂行にあたり有益なご教示と多大なご協力を戴きました岩手大学農学部共同獣医学科の一條俊浩准教授ならびに岩手県農業共済組合岩手県北基幹家畜診療所葛巻家畜診療所の木村淳所長,無線伝送式pHセンサーの開発と利用にあたり多大なるご支援を戴きました岩手大学研究推進機構の水口人史客員教授,第一胃液成分測定およびデータ解析に貴重なご助言とご協力を戴きました兵庫県立農林水産技術総合センター淡路農業技術センターの生田健太郎博士に深く感謝の意を表します.

略歴:
平成24年山形県入庁