10:40 AM - 11:10 AM
[SY-III-04] コーンサイレージ給与と疾病管理
コーンサイレージ(CS)は高濃度デンプンを含む高エネルギー粗飼料であるため,乳牛の飼養管理において有用な飼料として利用されている.一方で,給与失宜が第一胃発酵の異常や生産病など各種疾病の発生要因となることが報告されているが,その機序は明らかにされていない.そこで,本研究ではCS給与の失宜と生産病発生との関連を明らかにすることで,生産病の発生を制御することを目的とした.
【第1章】岩手県内の酪農場における飼養管理方法が疾病発生と血液性状に及ぼす影響
乳牛の生産病は飼養管理方法と密接に関連しており,CS給与もケトーシスや急性乳房炎発生のリスク因子であると報告されているが,その機序は明らかにされていない.そこで,本章ではCS給与と疾病発生との関連性を明らかにするため,岩手県内の酪農場において,飼養管理方法と疾病発生の関連性を調査するとともに,CS給与農場と非給与農場の疾病発生状況および血液代謝プロファイルテスト(MPT)成績を比較した.
その結果,「泌乳期にCSを乾物割合で30%以上含む飼料の給与」が,ケトーシスの発生と最も関連の強い因子として同定された(オッズ比=30.0,95%信頼区間=1.5 - 612,P < 0.05).その他疾病の関連因子は,本研究では明らかにされなかった.また,CS給与農場で非給与農場と比較して,ケトーシスと第四胃変位の発生率が高値を示したほか,MPT成績において,泌乳初期にHCS群(CS給与割合>30%DM)でNCS群(CS非給与)と比較して血中BHB濃度および血中AcAc濃度が高値を示すとともに,BUN濃度が低値を示した(各P < 0.05).
以上のことから,岩手県の酪農場において,ケトーシスの発生とCS給与との関連性が示唆されるとともに,泌乳期にCSを乾物割合で30%以上含む飼料を給与すると,泌乳初期で負のエネルギーバランス(NEB)および負の蛋白バランスが増悪し,ケトーシス発生のリスクの高くなる可能性が示唆された.
【第2章】実験的CS給与牛における第一胃液と血液の性状および肝組織の代謝関連遺伝子発現
第1章でCS給与割合が増加すると,NEBの増悪することが示唆されたが,熟期や品種によりCSの栄養価は異なる.そこで,本章ではCSの給与量および栄養価の違いがエネルギー代謝に及ぼす影響を明らかにするため,実験的CS給与牛を用いて第一胃液と血液の性状および肝組織のエネルギー代謝関連遺伝子の発現量を比較検討した.
供試牛は,A農場(n=5)およびB農場(n=4)で飼養されていた第一胃フィステル装着ホルスタイン種去勢牛で,A農場では東北地方で主流の低線維CS(NDF=43.7%DM),B農場では関東地方で主流の高線維CS(NDF=51.6%DM)を用いた.給与飼料中のCS乾物割合が約90%のHCS群と約30%のLCS群を設け,乾草のみの給与期間を挟む各2週間の交差試験を実施した.
その結果,第一胃液性状においてCS給与後にA農場の両群で酢酸濃度およびA/Pが低値,NH3-N濃度が高値を示した(各P < 0.05).また,頸静脈血液性状においてCS給与後1週にA農場の両群でBHB濃度が高値を示したほか,A農場のHCS群で給与後1週にBUN濃度および門脈血NH3濃度が高値を示したが,B農場のHCS群ではBUN濃度は低値を示した(各P < 0.05).肝組織の遺伝子発現は,A農場の両群でCS給与後に糖新生,β酸化およびケトン体生成関連遺伝の発現量が高値を示した.一方,B農場ではCS給与後にLCS群で糖新生関連遺伝子の発現量が高値を示したが,両群ともβ酸化関連遺伝子の発現量は低値を示した.
以上のことから,低線維CSを乾物割合で30%以上含む飼料の給与により,採食牛は第一胃液NH3-N濃度が高くなるとともにエネルギー代謝が低下し,血中Glu濃度維持のためケトン体の生成および糖新生の亢進する可能性が示唆された.
略歴:
平成19年3月 岩手大学農学部獣医学科 卒
平成19年4月 胆江地域農業共済組合(現 岩手県農業共済組合岩手県南基幹家畜診療所)入社
平成29年4月 岐阜大学連合獣医学研究科 入学
【第1章】岩手県内の酪農場における飼養管理方法が疾病発生と血液性状に及ぼす影響
乳牛の生産病は飼養管理方法と密接に関連しており,CS給与もケトーシスや急性乳房炎発生のリスク因子であると報告されているが,その機序は明らかにされていない.そこで,本章ではCS給与と疾病発生との関連性を明らかにするため,岩手県内の酪農場において,飼養管理方法と疾病発生の関連性を調査するとともに,CS給与農場と非給与農場の疾病発生状況および血液代謝プロファイルテスト(MPT)成績を比較した.
その結果,「泌乳期にCSを乾物割合で30%以上含む飼料の給与」が,ケトーシスの発生と最も関連の強い因子として同定された(オッズ比=30.0,95%信頼区間=1.5 - 612,P < 0.05).その他疾病の関連因子は,本研究では明らかにされなかった.また,CS給与農場で非給与農場と比較して,ケトーシスと第四胃変位の発生率が高値を示したほか,MPT成績において,泌乳初期にHCS群(CS給与割合>30%DM)でNCS群(CS非給与)と比較して血中BHB濃度および血中AcAc濃度が高値を示すとともに,BUN濃度が低値を示した(各P < 0.05).
以上のことから,岩手県の酪農場において,ケトーシスの発生とCS給与との関連性が示唆されるとともに,泌乳期にCSを乾物割合で30%以上含む飼料を給与すると,泌乳初期で負のエネルギーバランス(NEB)および負の蛋白バランスが増悪し,ケトーシス発生のリスクの高くなる可能性が示唆された.
【第2章】実験的CS給与牛における第一胃液と血液の性状および肝組織の代謝関連遺伝子発現
第1章でCS給与割合が増加すると,NEBの増悪することが示唆されたが,熟期や品種によりCSの栄養価は異なる.そこで,本章ではCSの給与量および栄養価の違いがエネルギー代謝に及ぼす影響を明らかにするため,実験的CS給与牛を用いて第一胃液と血液の性状および肝組織のエネルギー代謝関連遺伝子の発現量を比較検討した.
供試牛は,A農場(n=5)およびB農場(n=4)で飼養されていた第一胃フィステル装着ホルスタイン種去勢牛で,A農場では東北地方で主流の低線維CS(NDF=43.7%DM),B農場では関東地方で主流の高線維CS(NDF=51.6%DM)を用いた.給与飼料中のCS乾物割合が約90%のHCS群と約30%のLCS群を設け,乾草のみの給与期間を挟む各2週間の交差試験を実施した.
その結果,第一胃液性状においてCS給与後にA農場の両群で酢酸濃度およびA/Pが低値,NH3-N濃度が高値を示した(各P < 0.05).また,頸静脈血液性状においてCS給与後1週にA農場の両群でBHB濃度が高値を示したほか,A農場のHCS群で給与後1週にBUN濃度および門脈血NH3濃度が高値を示したが,B農場のHCS群ではBUN濃度は低値を示した(各P < 0.05).肝組織の遺伝子発現は,A農場の両群でCS給与後に糖新生,β酸化およびケトン体生成関連遺伝の発現量が高値を示した.一方,B農場ではCS給与後にLCS群で糖新生関連遺伝子の発現量が高値を示したが,両群ともβ酸化関連遺伝子の発現量は低値を示した.
以上のことから,低線維CSを乾物割合で30%以上含む飼料の給与により,採食牛は第一胃液NH3-N濃度が高くなるとともにエネルギー代謝が低下し,血中Glu濃度維持のためケトン体の生成および糖新生の亢進する可能性が示唆された.
略歴:
平成19年3月 岩手大学農学部獣医学科 卒
平成19年4月 胆江地域農業共済組合(現 岩手県農業共済組合岩手県南基幹家畜診療所)入社
平成29年4月 岐阜大学連合獣医学研究科 入学