[CPS2-03] 在来豚アグーの歴史と地域ブランドとしての有用性
日本では古来より仏教の教えにより殺生が禁止されていたため、豚肉が広く食されるようになったのは明治時代以降である。一方で沖縄へ豚が渡来したのは古く、14世紀末に中国人が沖縄へ帰化するときに持ち込んだものが初めてと言われており、その後、家畜として飼養され、様々な祭祀において用いられ貴重なタンパク源として食されていた。
今回、紹介する在来豚アグー(以下アグー)は、その末裔と言われている。アグーは発育が遅く小型で肉量が少ないため、20世紀初めから、主にバークシャー種による改良がおこなわれた。その結果、19世紀末に10万頭近くいたアグーの頭数が、20世紀初頭には約5万頭と半数近くまで激減し、代わってアグーと西洋系品種との雑種が約5万頭へと増加した。太平洋戦争後には、沖縄戦で壊滅的な打撃を受けた県民の食生活を支えるため、様々な西洋品種が導入され、結果としてアグーは雑種化が進んだ。1980年代には、雑種化をしていない従来のアグーは30頭へと激減したが、従来のアグーの特徴を残す個体をもとに関係機関・関係者が現在のアグー集団を復元した。
沖縄県畜研センターでは、アグーの品種特性を維持するために、体型の特徴調査と遺伝的特性の調査をおこなった。体型の特徴調査の結果、アグーは体長よりも胸囲が大きくその体型的特徴は独特であった。体型がアグーに最も近かったのは大型化前の古いタイプのバークシャー種50であり、20世紀初頭のアグー改良に用いた歴史的背景と一致した。一方で、体上線がややくぼみ、体下線も弓状に湾曲するといったバークシャー種にはない特徴を持ち、中国系品種の影響も強く残していた。
また、アグーは日本で唯一の在来豚であり、様々な過程を経て品種として確立し現在に至ったが、小集団として維持されてきたことから、アグーの遺伝子情報を得ることにより、過去の個体群の動態や品種の成り立ちを遺伝的特性から推察した。
アグーの5つのハプロタイプと東アジア系、西洋系品種を含む30ハプロタイプを用いてミトコンドリアDNAの母系解析をした結果、東アジア系と西洋系に大別され、アグーは西洋系と東洋系いずれにも分類された。アグーが保有する東アジア系のハプロタイプは中国種のそれと一致もしくはごく近縁であったことから、アグーの祖先が大陸から導入されたという従来の説を支持する結果となった。
また、アグーの近交退化を抑制するために、雄を広域的に活用する必要があり、人工授精技術の開発も行った。アグーの精液性状は西洋品種と比べ劣っていたため、小容量精液による子宮角深部注入用カテーテルを用いた人工授精の実用化を確立し、異なる農場間で液状精液を流通させ、アグー種豚の増殖に寄与した。
現在、優れた食味性が消費者から支持されたことも追い風となって、アグーの頭数は約1,000頭にまで増頭し、他品種の豚肉より高く取引され、アグーと西洋種との交雑種は沖縄で生産される頭数の10%までを占めるようになっている。今後は、「アグー」というブランドをより生かした安定した販売システムの確立が求められている。
今回、沖縄県畜産研究センターで調査・研究してきた体型の特徴、遺伝的構造などや現在実施している研究内容についても紹介したい。
今回、紹介する在来豚アグー(以下アグー)は、その末裔と言われている。アグーは発育が遅く小型で肉量が少ないため、20世紀初めから、主にバークシャー種による改良がおこなわれた。その結果、19世紀末に10万頭近くいたアグーの頭数が、20世紀初頭には約5万頭と半数近くまで激減し、代わってアグーと西洋系品種との雑種が約5万頭へと増加した。太平洋戦争後には、沖縄戦で壊滅的な打撃を受けた県民の食生活を支えるため、様々な西洋品種が導入され、結果としてアグーは雑種化が進んだ。1980年代には、雑種化をしていない従来のアグーは30頭へと激減したが、従来のアグーの特徴を残す個体をもとに関係機関・関係者が現在のアグー集団を復元した。
沖縄県畜研センターでは、アグーの品種特性を維持するために、体型の特徴調査と遺伝的特性の調査をおこなった。体型の特徴調査の結果、アグーは体長よりも胸囲が大きくその体型的特徴は独特であった。体型がアグーに最も近かったのは大型化前の古いタイプのバークシャー種50であり、20世紀初頭のアグー改良に用いた歴史的背景と一致した。一方で、体上線がややくぼみ、体下線も弓状に湾曲するといったバークシャー種にはない特徴を持ち、中国系品種の影響も強く残していた。
また、アグーは日本で唯一の在来豚であり、様々な過程を経て品種として確立し現在に至ったが、小集団として維持されてきたことから、アグーの遺伝子情報を得ることにより、過去の個体群の動態や品種の成り立ちを遺伝的特性から推察した。
アグーの5つのハプロタイプと東アジア系、西洋系品種を含む30ハプロタイプを用いてミトコンドリアDNAの母系解析をした結果、東アジア系と西洋系に大別され、アグーは西洋系と東洋系いずれにも分類された。アグーが保有する東アジア系のハプロタイプは中国種のそれと一致もしくはごく近縁であったことから、アグーの祖先が大陸から導入されたという従来の説を支持する結果となった。
また、アグーの近交退化を抑制するために、雄を広域的に活用する必要があり、人工授精技術の開発も行った。アグーの精液性状は西洋品種と比べ劣っていたため、小容量精液による子宮角深部注入用カテーテルを用いた人工授精の実用化を確立し、異なる農場間で液状精液を流通させ、アグー種豚の増殖に寄与した。
現在、優れた食味性が消費者から支持されたことも追い風となって、アグーの頭数は約1,000頭にまで増頭し、他品種の豚肉より高く取引され、アグーと西洋種との交雑種は沖縄で生産される頭数の10%までを占めるようになっている。今後は、「アグー」というブランドをより生かした安定した販売システムの確立が求められている。
今回、沖縄県畜産研究センターで調査・研究してきた体型の特徴、遺伝的構造などや現在実施している研究内容についても紹介したい。