The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Presentation information

機関誌編集委員会主催オンラインセミナー

ハゲタカ出版社の誘惑と不正から研究を守るために

Sun. Mar 28, 2021 12:00 PM - 1:00 PM ライブ配信

座長:菊地 和弘(農研機構生物機能利用研)、中島 郁世(農研機構畜産研究部門)

主催:(公社)日本畜産学会 機関誌編集委員会
協賛:ワイリー・パブリッシング・ジャパン株式会社
視聴はこちら(Zoom)
パスコード:328942

[OS] ハゲタカ出版社の誘惑と不正から研究を守るために

〇Motoko Takeda1 (1.Wiley Publishing Japan)

論文のオープンアクセス出版が普及し,著者である研究者が出版費用(APC: Article Publication Charge)を負担するオープンアクセス出版モデルが定着するとともに,APCを得ることのみを目的として論文を集め,適切な査読を行わず粗雑な審査で論文を掲載する「ハゲタカ出版社」が増えてきました.コロラド大学デンバー校のJefferey Beall氏が「ハゲタカジャーナル(predatory journal)」リストを発表してから早10年,ハゲタカ出版社の台頭は科学への脅威として世界的に認知されており,日本国内でも文科省および大学が,論文の投稿先を慎重に検討するよう研究者へ呼びかけています.しかしながら現在もなお,ハゲタカ出版の勢いは衰えず1万を超えるハゲタカジャーナルが科学論文を出版しているとみられています.

ハゲタカ出版社は,研究成果を上げる重圧にさらされた研究者を狙っています.研究者がハゲタカジャーナルに論文を投稿する理由はいくつかあり,論文の質よりも出版数を重視する,正当なジャーナルで採択される自信がないため確実に掲載されそうなジャーナルを選ぶ,短期間の査読を保証する謳い文句に騙される,ハゲタカジャーナルの正体を見抜けない,ハゲタカジャーナルかもしれないとおもいつつ自身の評価や責任を気にせず投稿してしまう,など様々です.

論文を投稿してからハゲタカジャーナルであることに気付いても,論文の取り下げや撤回に応じてもらえることはまずありません.他のジャーナルへの再投稿も,二重投稿になりますので認められません.信用に値しないジャーナルに掲載されることで自身の信頼の低下を招くことにもつながります.更にはジャーナルサイトが突然閉鎖されてしまうなど論文への長期的なアクセスが担保されないおそれもあります.自身の研究を守るには,論文をハゲタカジャーナルに投稿することのデメリットについて認識を深め,ハゲタカジャーナルを慎重に見分けて回避することが必要不可欠です.

見分ける方法として,以前よりブラックリストやホワイトリストが用いられていますが,両方のリストに含まれるジャーナルも一部あり,ハゲタカジャーナルと正当なジャーナルの境界は曖昧です.2019年12月には研究者や出版関係者ら43名が10カ国から集いハゲタカジャーナル/出版社の明確な定義について合意しました.ジャーナルの質や査読の質など外部からは判断できない要素を定義より除外し,他の特徴でハゲタカジャーナルを判別しようとする試みです.

1つの基準では見極めの難しい場合もありますが,以下のような複数の基準に照らしてハゲタカジャーナルである可能性を疑いながら,投稿先を選定することをお勧めいたします.1)審査基準を有するWeb of Science,Scopus,MEDLINE,DOAJなどにインデクスされているか,2)ジャーナルのウェブサイトや投稿規定に論文掲載のプロセスや料金の説明が明示されているか,3)ジャーナルのコンテンツに責任を持つ編集者が専門分野内でどのような地位にあるか,4)編集委員リストに氏名と所属機関が明示されているか,5)ジャーナル名,URL,ブランドロゴが正当なジャーナルと類似していないか(なりすましの疑いがないか),など.学術出版関連組織の連携によるThink. Check. Submit.の手軽なチェックリスト(https://thinkchecksubmit.org)を用いてジャーナルや出版社の信頼性を確かめる方法も有効です.一人で判断に迷うときは,経験のある指導教官や研究仲間にも相談してください.