[SSY2-02] 畜産物の品質評価、付加価値の向上に向けたメタボロミクス技術の工夫と応用
メタボロミクス解析の技術の進歩は目覚ましく、食品分野における品質評価、反応機構の解明に活用されるようになってきた。しかし、食材によって組織構造は異なり、それぞれ食品の持つ特徴に配慮する必要があることから、畜産物評価へのメタボロミクス解析の応用には様々な工夫が必要であった。我々は、GC/MS、LC/MSなどの質量分析計を用いて、畜産物の「代謝産物」と「脂質」のメタボロミクス解析を進めてきた。本大会では、① 畜産物の栄養成分の比較、② 牛肉の銘柄、部位の比較、③ 熟成に伴う栄養成分の経時的変化、④ 牛肉の食肉加工品の解析事例を紹介する。
GC/MSを用いた実験手法について
鶏肉(ブロイラー)、豚肉(ディロックとケンボローのF1交雑)、牛肉(黒毛和種)の試料は、食肉センターより直接入手した。銘柄の比較には、黒毛和種牛肉A4等級の2銘柄及びホルスタイン種の胸最長筋 (熟成21日目)を使用した。熟成に伴う栄養成分の解析では、交雑牛、黒毛和種、乳用種の胸最長筋(サーロイン)、半膜様筋(ウチモモ)を用いて、熟成0日、10日、20日、30日、40日までの経時的変化を検討した。牛肉の食肉加工品(牛ハム)は、肉のヒライ(兵庫県)より提供を受け検討した。
試料は、採材後、液体窒素で凍結破砕処理を行い、標準品を含む超純水/メタノール/クロロホルムで分画し、水溶性画分を島津製作所製GCMS-QP2010Ultra、あるいは脂質分画をThermo Fisher 社製LTQ Orbitrap XL、またはQ-Exactive plusを用いて分析した。
2. 畜種間の栄養成分の網羅的解析
GC/MSは、トリメチルシリル誘導体化することで、低分子のアミノ酸、有機酸、糖などの栄養成分を網羅的に解析できる。GC/MSによる畜種間の比較では、黒毛和種とホルスタイン種で88成分が、豚肉と鶏肉で84成分の栄養成分が、再現性高く検出された。
3. 黒毛和種牛肉の栄養成分の網羅的解析
GC/MSによる黒毛和種とホルスタイン種の比較では、フマル酸、アスコルビン酸、アデノシンなど6成分が有意に検出され、黒毛和種の銘柄の比較では、31成分 (アラニン、アスパラギン、グリセロール3-リン酸、イノシンなど) が有意な特徴として示された。
LC/MSによる総脂質を対象とした分析では、中性脂肪であるトリアシルグリセロール(TG)の様々な分子種が多く検出された。牛肉の熟成による経時的変化では、グルタミン酸など多くのアミノ酸が増加し、核酸成分の減少と、その分解物のヒポキサンチンの増加が認められた。
4. 食肉加工品の科学的評価へのメタボロミクス解析の応用
我々は、食肉加工品の栄養成分の分析において、メタボロミクス技術を活用している。一例として、新たに試みた黒毛和種牛肉を材料にした牛ハムと、従来の豚肉製品の抽出物をGC/MSで解析した結果、86成分が検出された。個別に栄養成分を比較分析したところ、牛ハムは、従来品に比べ、オレイン酸、オルニチンなどが豊富に含まれ、栄養成分にユニークな特徴を有していることが示された。
5. おわりに
本研究では、畜産物を対象に、従来の分析ではカバーできない栄養成分を含む網羅的解析の可能性について検討してきた。今後は、官能評価データなどを追加することで、牛肉の美味しさを視覚的にイメージできる美味しさマップへの応用や、牛肉や食肉加工品の品質をモニタリングする栄養成分の指標作りに活かして行きたい。
【略歴】
2004年 神戸大学大学院医学系研究科博士課程修了、2004年 神戸大学大学院医学研究科 21世紀COEプログラムCOE研究員、2008年 神戸大学大学院医学研究科グローバルCOEプログラムG-COE研究員、2008年 神戸大学大学院農学研究科助教、2013年カリフォルニア大学ディビス校客員研究員、2013年神戸大学大学院農学研究科助教 現在に至る。
GC/MSを用いた実験手法について
鶏肉(ブロイラー)、豚肉(ディロックとケンボローのF1交雑)、牛肉(黒毛和種)の試料は、食肉センターより直接入手した。銘柄の比較には、黒毛和種牛肉A4等級の2銘柄及びホルスタイン種の胸最長筋 (熟成21日目)を使用した。熟成に伴う栄養成分の解析では、交雑牛、黒毛和種、乳用種の胸最長筋(サーロイン)、半膜様筋(ウチモモ)を用いて、熟成0日、10日、20日、30日、40日までの経時的変化を検討した。牛肉の食肉加工品(牛ハム)は、肉のヒライ(兵庫県)より提供を受け検討した。
試料は、採材後、液体窒素で凍結破砕処理を行い、標準品を含む超純水/メタノール/クロロホルムで分画し、水溶性画分を島津製作所製GCMS-QP2010Ultra、あるいは脂質分画をThermo Fisher 社製LTQ Orbitrap XL、またはQ-Exactive plusを用いて分析した。
2. 畜種間の栄養成分の網羅的解析
GC/MSは、トリメチルシリル誘導体化することで、低分子のアミノ酸、有機酸、糖などの栄養成分を網羅的に解析できる。GC/MSによる畜種間の比較では、黒毛和種とホルスタイン種で88成分が、豚肉と鶏肉で84成分の栄養成分が、再現性高く検出された。
3. 黒毛和種牛肉の栄養成分の網羅的解析
GC/MSによる黒毛和種とホルスタイン種の比較では、フマル酸、アスコルビン酸、アデノシンなど6成分が有意に検出され、黒毛和種の銘柄の比較では、31成分 (アラニン、アスパラギン、グリセロール3-リン酸、イノシンなど) が有意な特徴として示された。
LC/MSによる総脂質を対象とした分析では、中性脂肪であるトリアシルグリセロール(TG)の様々な分子種が多く検出された。牛肉の熟成による経時的変化では、グルタミン酸など多くのアミノ酸が増加し、核酸成分の減少と、その分解物のヒポキサンチンの増加が認められた。
4. 食肉加工品の科学的評価へのメタボロミクス解析の応用
我々は、食肉加工品の栄養成分の分析において、メタボロミクス技術を活用している。一例として、新たに試みた黒毛和種牛肉を材料にした牛ハムと、従来の豚肉製品の抽出物をGC/MSで解析した結果、86成分が検出された。個別に栄養成分を比較分析したところ、牛ハムは、従来品に比べ、オレイン酸、オルニチンなどが豊富に含まれ、栄養成分にユニークな特徴を有していることが示された。
5. おわりに
本研究では、畜産物を対象に、従来の分析ではカバーできない栄養成分を含む網羅的解析の可能性について検討してきた。今後は、官能評価データなどを追加することで、牛肉の美味しさを視覚的にイメージできる美味しさマップへの応用や、牛肉や食肉加工品の品質をモニタリングする栄養成分の指標作りに活かして行きたい。
【略歴】
2004年 神戸大学大学院医学系研究科博士課程修了、2004年 神戸大学大学院医学研究科 21世紀COEプログラムCOE研究員、2008年 神戸大学大学院医学研究科グローバルCOEプログラムG-COE研究員、2008年 神戸大学大学院農学研究科助教、2013年カリフォルニア大学ディビス校客員研究員、2013年神戸大学大学院農学研究科助教 現在に至る。