The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

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メインシンポジウム

「畜産学のレジリエンスと進化」
Resilience and Evolution of Animal Science (REAS)

Tue. Sep 14, 2021 2:30 PM - 6:00 PM メインシンポジウム (オンライン)

Chairperson:Hiroshi Yoneyama, Haruki Kitazawa, Michiru FUKASAWA, Hara Kenshiro, Kentaro Kato, Sanggun Roh

4:10 PM - 4:30 PM

[MS-04] 【講演2】
マウスを用いた基礎研究から、ブタの産子数向上技術へのトランスレーション

*Masayuki Shimada1 (1. Hiroshima University)

多胎動物の一腹産子数(一度のお産で産まれる産子数)は,排卵される卵の数で決定される.そして,この一腹産子数の増加は,生産効率の改善に直結することから,排卵数を増加させる育種改良がなされてきた.しかし,表現型は遺伝要因+環境要因であり,育種改良とともに種雌豚の繁殖管理もまた重要な要素となっている.私達は,多胎動物の一腹産子数を決定する要因を探索するため,マウスを用いた卵巣の卵胞発育と排卵機構の解明を試みてきた.そして,排卵前卵胞へと卵胞が発達する卵胞発育過程(卵胞直径が拡大する)において,卵胞膜を裏打ちする顆粒膜細胞がミトコンドリアで産生されるATP依存的に増殖すること,この増殖+卵胞直系拡大による卵分泌因子の希薄化により,顆粒膜細胞で大規模なプロモーター領域の脱メチル化が誘導され,それが排卵刺激となるLHサージを感受し,排卵過程へと移行させる遺伝子発現パターンの劇的な変化に必須であることを見出した.ミトコンドリアにおけるATP生産(呼吸代謝)では副産物として活性酸素種(ROS)が産生されることから,この増殖時の副産物であるROSが卵胞発育過程で多くの卵胞を死滅させ,排卵前卵胞に至る卵胞を減少させると仮説立てた.そこで,腸管から吸収されやすい抗酸化因子(PQQとエルゴチオネイン)を雌マウスに飲水投与した結果,顆粒膜細胞における酸化ストレスマーカーの軽減,細胞増殖の促進,エストロゲン産生量の増加に加えて,排卵前卵胞へと発達する卵胞数が有意に増加した.さらに,過剰排卵処理での排卵数が1.5倍程度増加し,自然周期においても産子数が1匹以上増加した.マウスに飲水投与したPQQやエルゴチオネインを体重換算してブタに投与した場合,コストの面から実用化は難しい.そこで,マウスにおいて酸化ストレスにより卵胞閉鎖が起こるステージを詳細に解析し,種雌豚への投与期間を離乳後2日間に限定した.そして,エルゴチオネインを抗含有するタモギダケ粉末を給餌する実証試験を実施した結果,非給餌区に比較して0.9頭の産子数増加(6%程度の改善)が認められた.年2.5回程度の分娩回数,平均産子数15頭から計算すると,種雌豚(母豚)10,000頭規模の大規模生産者では,22,500頭の生産増=出荷高として6.7億円以上の増加となる.6%は,N数とばらつきにより有意差が得られるかどうかの差であるが,小さくとも確実な差は養豚企業の生産効率改善に直結することから,今後も生産現場の視点も持った基礎研究を遂行していきたいと考えている.

【略歴】 1998年 広島大学大学院生物圏科学研究科 博士課程前期修了 修士(農学) 1999年 広島大学生物生産学部 助手 2003年 山口大学連合大学院獣医学研究科 博士(獣医学) 2004年~2005年 米国Baylor College of Medicine 客員研究員 2006年 広島大学大学院生物圏科学研究科 准教授 2017年 広島大学大学院生物圏科学研究科 教授 2019年~広島大学大学院統合生命科学研究科 教授