[YSY-01] 遺伝子改変マウスと生殖生物学研究への応用
1970年代半ばに外来遺伝子をゲノムに導入したトランスジェニック (Tg) マウス、1980年代後半に内在性遺伝子を破壊したノックアウト (KO) マウスが作られた。その後、これらTg/KOマウスを用いて、遺伝子から生命機能を探るリバースジェネティクスが飛躍的に進んだ。我々もGFPを全身で発現する“グリーンマウス”を世界に先駆けて報告し、また精巣特異的小胞体シャペロンであるCalmeginが精子受精能力を司るADAM3タンパク質の品質管理に必須であることを報告するなどしてきた。しかしながら、従来のKOマウス作製法は、相同組換えベクターを構築してES細胞に導入し、薬剤選択の後に相同組換え体を単離、さらに初期胚に注入してキメラマウスを作製して目的変異を次世代に繋ぐ必要があり、コスト・労力・時間・技術のいずれにおいても負荷の多いものであった。 それが2012年のCRISPR/Cas9ゲノム編集システムの登場により、大きく一変し、比較的容易に低コストで効率よくKOマウスが作れるようになった。本講演では、同法を活用し、我々の研究室で行っている精巣特異的に発現する遺伝子群の網羅的KOマウス作製と表現型解析について報告する。我々は、文献およびデータベース検索から、ヒトとマウスで保存されており、精巣特異的に発現する遺伝子を約1,000個リストアップした。従来法およびCRISPR/Cas9法により遺伝子KOマウスを作製したところ、妊孕性を調べた272遺伝子の内、約7割に相当する160遺伝子のKOマウスでは外見上の異常も顕著な妊孕性の低下も認められなかった。これらの結果は、遺伝子の発現様式だけでは、個体レベルでの遺伝子機能やその重要度が分からないことを示している。その一方で、減数分裂や精子成熟、精子機能に必須な80遺伝子を同定することができた。このように、ゲノム編集技術を活用すれば、個体レベルで重要な遺伝子を先に選び出して研究を進められることから、費用や労力・時間に対して得られる成果が大幅に改善され、生物学研究に躍進をもたらすと言える。本講演では、我々がゲノム編集マウスを通して発見した生殖関連因子やメカニズムについて講演する。
略歴
1997年:大阪大学大学院薬学研究科博士課程修了:博士(薬学)
1997年:日本学術振興会・特別研究員
1998年:大阪大学遺伝情報実験施設・助手
2000年:米国ソーク研究所・博士研究員(2002年帰国)
2004年:大阪大学微生物病研究所・助教授
2012年:大阪大学微生物病研究所・教授
2016年:東京大学医科学研究所・特任教授(兼任)
2017年:大阪大学・栄誉教授
略歴
1997年:大阪大学大学院薬学研究科博士課程修了:博士(薬学)
1997年:日本学術振興会・特別研究員
1998年:大阪大学遺伝情報実験施設・助手
2000年:米国ソーク研究所・博士研究員(2002年帰国)
2004年:大阪大学微生物病研究所・助教授
2012年:大阪大学微生物病研究所・教授
2016年:東京大学医科学研究所・特任教授(兼任)
2017年:大阪大学・栄誉教授