[AW-03] ウシ筋肉内脂肪蓄積への免疫細胞の役割に関する研究
筋肉組織内部等の、通常は脂肪が蓄積しない部位に蓄積する脂肪を、異所性脂肪と総称する。牛肉生産では、異所性脂肪である筋肉内脂肪の蓄積状態が肉質評価の指標となっており、特に黒毛和種肥育牛は、他の品種より筋肉内脂肪の蓄積が多いことが特徴である。また重度に肥満の進行したヒトや実験動物でも、筋肉内脂肪の蓄積が進行している。高エネルギー摂取状態では、まず皮下脂肪組織や内臓脂肪組織の蓄積が増加し、さらに肥満が進行する結果、筋肉内への脂肪の蓄積が開始されると考えられているが、筋肉内脂肪組織の蓄積を制御する要因に関しては不明な点が多い。
脂肪組織は、実質細胞である脂肪細胞と、主に免疫細胞によって構成されている間質細胞によって成り立っている。ヒトや実験動物において、肥満の進行に伴い脂肪組織への免疫細胞浸潤が増加し、脂肪組織が炎症状態になることが明らかにされた。さらに最近のヒトや実験動物の研究において、免疫細胞が脂肪細胞の増殖や分化を制御すること、脂肪組織の成長制御に脂肪組織炎症の進行にともなう脂肪組織の老化促進が関与しているとの報告がされた。これらの結果は、肥満にともなう脂肪組織の成長が、免疫細胞によって制御されていることを示すものである。従って肥育牛の筋肉内脂肪組織の蓄積制御にも、免疫細胞が影響を及ぼしている可能性が推察されるが、詳細は不明である。そこで本研究では、肥育牛の脂肪組織における免疫細胞が脂肪組織の炎症や老化に及ぼす影響を明らかにすることによって、ウシ筋肉内脂肪の新たな蓄積制御機構を解明することを目的とし、以下の検討を実施した。
1. 肥育牛脂肪組織への免疫細胞浸潤に関する研究
脂肪蓄積部位の違いが、黒毛和種肥育牛における免疫細胞浸潤に及ぼす影響を検討した。皮下脂肪組織及び筋肉内脂肪組織と比較し、内臓脂肪組織ではマクロファージ浸潤が亢進していた。炎症性マーカーの発現量も、内臓脂肪組織が皮下脂肪組織及び筋肉内脂肪組織より高かった。細胞老化促進を制御するp53遺伝子の内臓脂肪組織における発現量は、皮下脂肪組織や筋肉内脂肪組織より高かった。さらに、老化マーカー発現量やSA- βgal染色の結果から、内臓脂肪組織は皮下脂肪組織より脂肪組織の老化が亢進していることが明らかとなった。以上の結果から、脂肪蓄積部位の違いは免疫細胞浸潤に影響し、特に内臓脂肪組織において脂肪組織の炎症と老化が亢進していると考えられた。
次に、筋肉内脂肪蓄積能力が大きく異なる黒毛和種とホルスタイン種の品種差が、脂肪組織における免疫細胞浸潤に及ぼす影響を検討した。皮下脂肪組織におけるマクロファージ浸潤、炎症性および老化マーカー発現、p53遺伝子発現、SA- βgal染色に、品種差は認められなかった。一方、黒毛和種の内臓脂肪組織のマクロファージ浸潤は、ホルスタイン種より亢進していた。さらに内臓脂肪組織における炎症性および老化マーカー発現、p53遺伝子発現、SA- βgal染色も、黒毛和種がホルスタイン種より高い結果であった。以上より、ホルスタイン種と比較し黒毛和種の内臓脂肪組織では、脂肪組織の炎症ならびに老化が亢進していると考えられた。
2. 黒毛和種肥育牛の体脂肪分布と筋肉内脂肪蓄積に関する研究
肥満のヒトでは、体脂肪分布状態が異所性脂肪蓄積に影響を及ぼすことが明らかにされている。そこで本研究では、黒毛和種肥育牛の筋肉内脂肪蓄積に、体脂肪分布が及ぼす影響を検討した。黒毛和種肥育牛を、筋肉内脂肪蓄積状態の異なる枝肉格付A3、A4、A5毎に分類し、筋肉内脂肪細胞のセルラリティーに及ぼす影響を検討した結果、A5の筋肉内脂肪細胞は、A3の筋肉内脂肪細胞より肥大化していることを見出した。さらにロースBMSナンバーは、皮下脂肪割合とは正の相関が、内臓脂肪割合とは負の相関が認められた。従って、肥育牛の筋肉内脂肪蓄積状態には体脂肪分布が影響しており、筋肉内脂肪含量が高い牛では、皮下脂肪割合が高く、内臓脂肪割合が低いことが明らかになった。
これら一連の結果から、肥満状態の内臓脂肪組織における組織炎症や組織老化の亢進によって、内臓脂肪における脂肪蓄積能力が低下した結果、余剰エネルギー蓄積部位が異所性脂肪である筋肉内脂肪部位に遷移する可能性が推察された。本研究で得られた成果をもとに、肥育牛の新たな飼養管理技術の開発に貢献したいと考えている。
脂肪組織は、実質細胞である脂肪細胞と、主に免疫細胞によって構成されている間質細胞によって成り立っている。ヒトや実験動物において、肥満の進行に伴い脂肪組織への免疫細胞浸潤が増加し、脂肪組織が炎症状態になることが明らかにされた。さらに最近のヒトや実験動物の研究において、免疫細胞が脂肪細胞の増殖や分化を制御すること、脂肪組織の成長制御に脂肪組織炎症の進行にともなう脂肪組織の老化促進が関与しているとの報告がされた。これらの結果は、肥満にともなう脂肪組織の成長が、免疫細胞によって制御されていることを示すものである。従って肥育牛の筋肉内脂肪組織の蓄積制御にも、免疫細胞が影響を及ぼしている可能性が推察されるが、詳細は不明である。そこで本研究では、肥育牛の脂肪組織における免疫細胞が脂肪組織の炎症や老化に及ぼす影響を明らかにすることによって、ウシ筋肉内脂肪の新たな蓄積制御機構を解明することを目的とし、以下の検討を実施した。
1. 肥育牛脂肪組織への免疫細胞浸潤に関する研究
脂肪蓄積部位の違いが、黒毛和種肥育牛における免疫細胞浸潤に及ぼす影響を検討した。皮下脂肪組織及び筋肉内脂肪組織と比較し、内臓脂肪組織ではマクロファージ浸潤が亢進していた。炎症性マーカーの発現量も、内臓脂肪組織が皮下脂肪組織及び筋肉内脂肪組織より高かった。細胞老化促進を制御するp53遺伝子の内臓脂肪組織における発現量は、皮下脂肪組織や筋肉内脂肪組織より高かった。さらに、老化マーカー発現量やSA- βgal染色の結果から、内臓脂肪組織は皮下脂肪組織より脂肪組織の老化が亢進していることが明らかとなった。以上の結果から、脂肪蓄積部位の違いは免疫細胞浸潤に影響し、特に内臓脂肪組織において脂肪組織の炎症と老化が亢進していると考えられた。
次に、筋肉内脂肪蓄積能力が大きく異なる黒毛和種とホルスタイン種の品種差が、脂肪組織における免疫細胞浸潤に及ぼす影響を検討した。皮下脂肪組織におけるマクロファージ浸潤、炎症性および老化マーカー発現、p53遺伝子発現、SA- βgal染色に、品種差は認められなかった。一方、黒毛和種の内臓脂肪組織のマクロファージ浸潤は、ホルスタイン種より亢進していた。さらに内臓脂肪組織における炎症性および老化マーカー発現、p53遺伝子発現、SA- βgal染色も、黒毛和種がホルスタイン種より高い結果であった。以上より、ホルスタイン種と比較し黒毛和種の内臓脂肪組織では、脂肪組織の炎症ならびに老化が亢進していると考えられた。
2. 黒毛和種肥育牛の体脂肪分布と筋肉内脂肪蓄積に関する研究
肥満のヒトでは、体脂肪分布状態が異所性脂肪蓄積に影響を及ぼすことが明らかにされている。そこで本研究では、黒毛和種肥育牛の筋肉内脂肪蓄積に、体脂肪分布が及ぼす影響を検討した。黒毛和種肥育牛を、筋肉内脂肪蓄積状態の異なる枝肉格付A3、A4、A5毎に分類し、筋肉内脂肪細胞のセルラリティーに及ぼす影響を検討した結果、A5の筋肉内脂肪細胞は、A3の筋肉内脂肪細胞より肥大化していることを見出した。さらにロースBMSナンバーは、皮下脂肪割合とは正の相関が、内臓脂肪割合とは負の相関が認められた。従って、肥育牛の筋肉内脂肪蓄積状態には体脂肪分布が影響しており、筋肉内脂肪含量が高い牛では、皮下脂肪割合が高く、内臓脂肪割合が低いことが明らかになった。
これら一連の結果から、肥満状態の内臓脂肪組織における組織炎症や組織老化の亢進によって、内臓脂肪における脂肪蓄積能力が低下した結果、余剰エネルギー蓄積部位が異所性脂肪である筋肉内脂肪部位に遷移する可能性が推察された。本研究で得られた成果をもとに、肥育牛の新たな飼養管理技術の開発に貢献したいと考えている。