[AW-07] 牛乳腺上皮細胞を用いた乳分泌モデルの作製とその有用性の検証
泌乳期の乳産生は乳腺上皮細胞で行われており、その機能性の解明は酪農生産の向上につながると考えられる。牛乳腺上皮細胞の生理機能および外部刺激に対する応答について詳細を解明しようとする場合、個体レベルで検証を行うことは現実的ではない。なぜなら、細胞内での反応は数時間、数分単位で変化するからである。そのため、乳腺上皮細胞を用いた培養モデルの作製が必要不可欠である。そこで本研究では、乳腺上皮細胞の乳産生を再現した乳分泌モデルを作製し、その有用性を乳房炎原因菌の毒素およびイソフラボンを用いて検証した。 まず、単層培養、セルカルチャーインサートを用いた培養および細胞の足場としてコラーゲンゲルを被覆したセルカルチャーインサートでの培養の3通りを検証した。その結果、後者の培養でのみ、頭頂部側の細胞間隙にタイトジャンクション (TJ)構成タンパク質であるクローディン-3とオクルディンが連続的に共局在する様子が観察された。また、培地成分としてデキサメタゾンと牛脳下垂体抽出物を同時に添加することで、乳腺上皮細胞は代表的な乳タンパク質であるβ-カゼインなどの乳成分を分泌し、透過性の低いTJを形成しており、生体の泌乳期乳腺上皮細胞の特徴を再現していることが確認された。 続いて、作製した乳分泌モデルの外部刺激に対する応答性について大腸菌の細胞壁成分であるリポ多糖と黄色ブドウ球菌の細胞壁成分であるリポタイコ酸を用いて検証した。インサート上層の培地のみに添加した結果、それぞれの刺激に応じて、乳腺上皮細胞の乳成分産生が変化し、それぞれの乳房炎の症状と類似した反応が確認された。 最後に、マメ科植物に含まれるイソフラボンとその代謝産物の影響を検証した。その結果、イソフラボン代謝経路の上流であるビオカニンAやホルモノネチン、ゲニステインでは乳産生に阻害的な影響を示していた。一方、代謝経路の下流であるエクオールやダイズイン、パラエチルフェノールでは乳産生に促進的な作用が確認された。 本研究で作製したin vitro乳分泌モデルは泌乳期の牛乳腺上皮細胞の特徴を再現しており、外部刺激に対する応答性も生体同様の反応を示していた。そのため、乳産生機構を分子・細胞レベルで解明する研究に適していると考えられ、今後、乳牛の乳生産性向上への発展に寄与する研究への応用が期待される。