[YLS-03] 研究開発の場としての酪農場の可能性について
- 日本畜産学会131回大会ランチョンセミナー要旨 講演者:ノーサンファーム株式会社 田中秀一 演題:研究開発の場としての酪農場の可能性について 2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大と2022年からの地政学的な混乱は、生乳の需要減少と飼料をはじめとする生産資材やエネルギーコストの上昇、個体販売価格の下落という現象を引き起こし、日本の酪農に暗い影を落としています。また、以前から日本の酪農が抱えていた潜在的な課題(飲用乳中心の消費構造、飼料の海外依存、飼養頭数と粗飼料用土地面積のアンバランス、人手不足など)を顕在化させた事象でもあると認識しています。特に、加工原料乳が中心で生産抑制下にある北海道の大規模酪農経営では、その継続性が脅かされています。 「ノーサンファーム株式会社(以下NF)」は、養牛用配合飼料の開発を目的として、飼料メーカーが設立した農場です。2019年から生乳の出荷を行っています。搾乳牛の頭数は約100頭、2台の搾乳ロボットを導入しています。搾乳ロボットには、飼料の給与量や搾乳に関する設定条件とともに生産記録が蓄積されていきます。首輪に装着されたセンサーによって記録された反芻時間や活動量などの情報もロボットに送られ、繁殖や治療の管理作業に活用されています。搾乳ロボット導入は、搾乳作業時間の削減と情報蓄積による農場管理への支援に大きな効果があると理解しています。 搾乳ロボットは、経営者の時間の確保(家族のQOLの改善)や雇用労働の軽減という点で大きな効果があります。一方、投資金額が大きいことからロボット当たりの売上を高める必要があります。NFではロボット内で給与する飼料の内容やロボットの運用条件の検討などを研究課題にしています。またコーンサイレージなどの粗飼料を有効に使うためにPMRに組み合わせる濃厚飼料の内容についても検討しています。搾乳群に入ったときに能力を発揮してもらうための子牛や育成牛の飼養方法の検討など、長期的な課題もあります。 農場を運営するにあたっては、当然のことながら、たくさんの課題に直面していますし、たくさんのことが影響しあっていることに気づかされます。例えば、乳質管理では、搾乳機の洗浄だけではなく、乳牛のサイズに合った牛床であるかどうかが生乳の細菌数に影響していることが分かったり、糞尿処理では、モノとして糞尿の処理だけではなく、粗飼料の栄養成分への影響を分析値として目の当たりにしたり、給餌機械の容量が乳牛のDMIを制限していて、我々の条件ではなかなか改善することが難しかったり、等々です。これまで、「栄養」の側面からしか農場の課題を見ることのできなかったことが、農場を持つことで酪農をトータルに理解できるようになってきたと思います。昔、キーニィさんが言っていた「牛たちの運命は我々に任されている」ということを実感しています。 先に述べたように、搾乳ロボットはデータの収集を容易にできます。まだまだ使いこなせていないかな、と思いますが、それを含めてこの農場は、酪農の課題を掘り下げることを可能にしてくれる場所だと思っています。また、我々が気づいていない課題が目の前にあるのかもしれません。興味を持って頂ける研究者の皆さまに声をかけて頂けると嬉しいです。よろしくお願いいたします。 以上