[ODP-013] ヒト腸内常在菌によるClostridioides difficile毒素の放出抑制
腸内細菌叢は,食物代謝,腸管免疫の誘導や外来病原体の定着阻害など,宿主の生命維持に重要な役割を担っている。Colonization resistanceと呼ばれる腸内細菌叢による外来病原体の定着阻止は,腸管における感染防御機構として認識されている。しかしながら,腸内細菌がどのように外来病原体の病原性を抑制しているのか,そのメカニズムについては解明されていない点が多い。Clostridioides difficile (CD) は,抗菌薬投与により腸内細菌叢が破綻すると過増殖し,抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎の原因となる。CDの主要な病原因子はToxin AとToxin Bであり,腸管内での毒素レベルの上昇がCD関連下痢症の発症と密接に関連する。我々はこれまでに,CDの毒素活性を腸内細菌であるBacteroides thetaiotaomicron (BT) が抑制すること,またBTのトランスポゾン挿入変異ライブラリーを用いた解析から,BTの多糖合成や多糖分解に関する遺伝子群がCD毒素の産生抑制に関与していることを明らかにしてきた。本研究では,BTの培養上清から低分子の代謝産物やタンパク質成分を除去した凍結乾燥標品(BT多糖画分)を作製し,そのCD毒素産生に対する抑制作用を検証した。その結果,BT多糖画分によりCDの毒性産生が抑制されること,また,その抑制活性はリゾチーム処理によって減弱されることを見出した。しかし,RNA-seqや定量PCR解析から,BT多糖画分はCDの毒素遺伝子発現には影響しなかった。Triton X-100を用いた自己溶菌アッセイを行ったところ,BT多糖画分によりCDの自己溶菌が抑制された。これらの結果から,BT由来の多糖類がCDの自己溶菌を阻害し,菌体外への毒素の放出を抑制することが示唆された。