第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

2 微生物の生態

[ODP2C] c. 生育環境・培養条件

[ODP-023] Na+/H+アンチポーター(NhaA)は大腸菌の乾燥抵抗性を規定する

○榎枝 秀朗1,田中 菜那1,大久保 寅彦1,佐藤 豊孝2,横田 伸一2,タパ ジーワン3,山口 博之1 (1北大院・保科・病態解析,2札幌医大・医・微生物学,3北大・人獣リサーチセンター)

【背景】人が触れる頻度の高い場所は細菌が付着し,医療関連感染の原因となり得る。これらの場所は乾燥しており,付着した細菌は乾燥抵抗性の獲得が考えられる。本研究室では大腸菌transposon(Tn)挿入変異株ライブラリー(n=243)を用いた実験によりnhaA遺伝子(Na‍+/H+ antiporter)破壊株の乾燥抵抗性減弱を見出した。そこでNhaAの乾燥抵抗性への関与を検証した。
【方法】nhaA欠損株をRed/recombination法より,再導入株をNEBuilder HiFi DNA Assembly試薬より作出した。これらと大腸菌DH5a,Tn挿入株(nhaA遺伝子部分への挿入確認済み)の懸濁液を作成し,シャーレにスポット(1.0x105CFU/spot)し乾燥後,4日目まで菌を回収し生菌数を比較した。各4株はグラム染色で形態観察をした。DH5a懸濁液をNhaA特異的阻害剤(2-Aminoperimidine[2-AP])に0,1,10,100µMで暴露し乾燥後の生菌数を比較した。nhaA遺伝子の特異性の比較のため系統解析を行なった。
【結果・考察】Tn挿入株と欠損株では乾燥直後から生菌数が急減したが,再導入株はDay4までDH5aと同程度の生菌率だった。nhaA欠損株では菌体の伸長がみられた。NhaAは細胞分裂の浸透圧調整に関わるため,分裂異常が考えられた。菌懸濁液をLB brothとし2-APに暴露した結果,Day4には10µMで9.2x103CFU/spotに対し100µMで1.4x103CFU/spotと減少したが有意差はなかった(p=0.051)。菌懸濁液がPBSの時,Day4では10µMで1.6x102CFU/spotに対し100µMで2.0x101CFU/spotと有意に減少した(p=0.008)。従って2-APが大腸菌の乾燥抵抗性に影響すると見られ,NhaAの重要性が示された。系統解析より他の細菌でもnhaA遺伝子の保持が認められ,乾燥抵抗性に関わる可能性がある。