[ODP-045] 青枯病菌Ralstonia solanacearumのクオラムセンシングの進化
グラム陰性植物病原細菌Ralstonia solanacearum(青枯病菌)は,ゲノム情報を基に,phylotype I–IVに分別され,祖先種はphlotype IIIと考えられている。病原性に不可欠なクオラムセンシング(QS)を起動するために,青枯病菌は,メチル基転移酵素PhcBにより,QSシグナルとしてmethyl 3-hydroxymyristateとmethyl 3-hydroxypalmitateそれぞれを産生する。QSシグナルを受容したセンサーヒスチジンキナーゼPhcSが,レスポンスレギュレーターPhcQをリン酸化する。さらに,センサーヒスチジンキナーゼPhcKが,転写制御因子PhcAの発現誘導に関わる。QSによる遺伝子発現制御には,PhcAとリン酸化PhcQが関与する。本研究では,青枯病菌のQSの進化機構の解明を目的に,ゲノム情報から推定されたPhcB,PhcS,PhcQ,PhcKおよびPhcAそれぞれのアミノ酸配列を用いて,青枯病菌189菌株の系統樹を作成した。PhcBとPhcSのアミノ酸配列を基にした系統樹では,産生するQSシグナルに応じて菌株は2つに大別された。PhcQ,PhcKおよびPhcAのアミノ酸配列を基にした系統樹では,菌株はphylotypeに応じて分別された。しかし,phcKは,phylotype IIIと一部のphylotype Iの菌株では見出せなかった。これらの結果から,phcQとphcAを有する青枯病菌祖先種は,まず,QSシグナルの産生・感知に関わるphcBとphcSの平衡進化を行い,phylotype I,IIおよびIVへの分化の前にphcKを獲得し,その後,phcQ,phcKおよびphcAは,ゲノム進化に対応した平衡進化を行ったと考えられた。