第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

4 微生物の分子論

[ODP4A] a. ゲノム・プラスミド・遺伝子水平伝播・可動性遺伝因子・進化

[ODP-053] 関東地区において高頻度で分離されたST1/spa-t1784型MRSAのゲノム解析

○小倉 康平1,秋山 徹2,菊池 賢3 (1金沢大・新学術創成研究機構,2国立国際医療研究セ・研・病原微生物,3東京女子医科大・感染症科)

【背景】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,その薬剤耐性ならびに病原性から感染症分野で大きな問題となっている。2018年から2019年にかけての関東地区13施設MRSAの分子疫学解析から,SCCmec type IVのST1/spa-t1784型が主流のクローンであることが明らかになった(本学会演題:関東地区におけるMRSAの分子疫学解析)。本研究では,ST1/spa-t1784型(本型)MRSAについて全ゲノム解析をベースとした性状解析を行った。
【方法】本型MRSA 47株について,Illumina社Miseqを用いた全ゲノム解析を実施した。また完全ゲノムの決定には,Miseqにより得たショートリードとOxford Nanopore 社 MinIONにより得たロングリードの両方を用いた。
【結果】MRSA全ゲノム中SNPに基づいた系統学的解析の結果,本型MRSA 47株は同じクラスターに集約していたが,47株内での顕著なグループ形成は見られなかった。47株は全て,Staphylococcal enterotoxin H をコードする遺伝子を保持していた。また現在まで,現在1株について完全(環状化)ゲノムを決定している。そのゲノムは2,849,402 bpからなる染色体配列と,29,077bp,20,465bpからなる2つのプラスミドから構成され,SEA,SEM,SPI,SSLなどのスーパー抗原様遺伝子が見出された。
【考察】本型MRSAが流行型となった背景として,新たなバクテリオファージによる新たな病原因子獲得あるいは遺伝子変異による高病原化が考えられる。今後も比較ゲノム解析を継続し,本型MRSAが有する固有の病原特性を明らかにしていく。
(共同研究者:君津中央病院・加地大樹,東邦大附病院・佐々木雅一,亀田総合病院・大塚喜人)