第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

4 微生物の分子論

[ODP4C] c. タンパク質の構造と機能

[ODP-065] ビブリオ菌べん毛モーターCリング構成タンパク質FliMの小さな構造変化が回転方向の変化を引き起こす

竹川 宜宏1,錦野 達郎2,山下 俊貴1,堀 清志郎3,尾上 靖宏4,井原 邦夫5,小嶋 誠司3,今田 勝巳1,○本間 道夫3 (1阪大・院理・高分子科学,2阪大・蛋白研,3名大・院理・生命理学,4立命館大・生命科学,5名大・遺伝子)

多くの運動する細菌は,回転するべん毛によって遊泳する。べん毛の基部には,膜に埋まったモーターが存在し,外部環境を感知して走化性システムによって回転方向を変化させて,誘引・忌避行動をとる。細胞の極にべん毛がある海洋性ビブリオ菌(Vibrio alginolyticus)では,誘引反応ではモーターを反時計回り(CCW)に,忌避反応では時計回り(CW)とCCWの間で回転方向を頻繁に切り替える。モーターをCW回転によってべん毛を先端にして泳ぐ変異株NMB102を分離していた。全ゲノム配列決定によって,この菌では,走化性シグナル伝達タンパク質CheYに結合するモーターのCリングのコンポーネントであるFliMでR49P置換が起こっていた。クローン化したfliM遺伝子にR49P変異を導入してfliM欠損株に導入するとC Wに回転方向が固定された表現型を示した。cheY欠損でべん毛はCCWに回転方向が固定されるが,この変異を持つと,CheYの存在とは無関係にCW回転方向に固定されてしまう。R49P変異によって,CリングがCheYが結合したCWコンフォメーションになったと考えられる。FliMの結晶構造解析から,R49P変異により,FliM-FliMとFliM-CheYの両方の相互作用に関与するFliMの中央ドメインのN末端α-ヘリックスの構造変化が引き起こされることが分かった。結晶構造と予測されたCリング構造モデルから,FliMのR49Pの小さな構造変化が,CリングのCWコンフォメーションへの劇的な再配列を誘発すると推測された。