第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

4 微生物の分子論

[ODP4E] e. 情報伝達(菌体内・菌細胞間)

[ODP-075] 皮膚糸状菌p21-activated kinase PAKは菌糸形態に寄与する

○石井 雅樹1,2,大畑 慎也1,2,山田 剛3,宇賀 英子1,2,堅田 利明1,2 (1武蔵野大・薬・分子細胞生物学,2武蔵野大・薬研・分子細胞生物学,3帝京大・医真菌研)

真核生物である真菌は糸状に細胞を伸ばすことにより増殖する。菌糸の形成は病原性真菌の病原性に寄与する。皮膚に起こる主要な感染症である白癬(水虫)は皮膚糸状菌によって引き起こされる。我々は,皮膚糸状菌の低分子量Gタンパク質Rac及びCDC42 (p21) が菌糸成長に関与することを見出しているが,その下流でどのように菌糸成長の制御が行われているかは不明である。本研究では,Rac及びCDC42下流のエフェクタータンパク質p21-activated kinase (PAK) が皮膚糸状菌において,菌糸成長に寄与しているか検討した。Rac及びCDC42とPAKの相互作用の阻害剤であるIPA-3は皮膚糸状菌の発芽及びその後の菌糸成長を阻害した。皮膚糸状菌のゲノム情報から,ヒトPAK1のCDC42/Rac interactive binding (CRIB) ドメインと相同なペプチドを有するタンパク質を検索し,酵母Cla4及びSte20に類似したPAK様タンパク質を同定した。cla4及びste20の各遺伝子条件発現抑制株を用いて菌糸成長への寄与を検討したが,遺伝子の発現抑制によっては明らかな菌糸成長の抑制は見られなかった。一方でcla4遺伝子欠損株を作製し,菌糸成長を検討したところ,菌糸成長が著しく抑制され,さらに複数のPAKキナーゼ阻害剤が皮膚糸状菌の発芽及びそれに続く菌糸成長を阻害したことから,皮膚糸状菌PAKが菌糸成長に寄与することが示唆された。本研究をさらに発展させることにより,Rac及びCDC42を介した皮膚糸状菌の菌糸成長制御機構が解明されるものと期待される。