[ODP-077] 酵母における活性イオウ分子による寿命制御
我々はシステインパースルフィド(CysSSH)をはじめとした活性イオウ分子が生体内で多量に存在し,強力な抗酸化活性や親電子シグナル制御機能を発揮していることを見出してきた。また,最近,翻訳関連酵素の1つであるcysteinyl-tRNA synthetase(CARS)がシステインからピリドキサールリン酸(PLP)依存的にCysSSHを合成し,その合成経路は種横断的に保存されていることを発見した。しかしながら,活性イオウ分子の生理機能については不明な点が多く残っている。本研究では,真核生物のモデル生物として出芽酵母を用いて活性イオウ分子の生理機能の解明を行った。出芽酵母のCARSに変異(PLP結合部位のリジンをアラニンに置換)を導入し,細胞内CysSSH含量が低下した変異株を作製した。変異株の表現型を解析したところ,ミトコンドリアのエネルギー代謝異常とともに,寿命が顕著に低下していることを発見した。また,低下した寿命は活性イオウ分子ドナーを添加することによってほぼ完全に回復することも見出した。これらのことから,CARSによって産生されるCysSSHは内因性の寿命制御因子であることが示唆された。今後,CARSによる寿命制御機構を解明することで,人の抗老化戦略の構築とエネルギー代謝異常による各種疾患(ミトコンドリア病,がん,生活習慣病等)の発症機構の予防・治療法の開発に寄与することが期待される。