[ODP-086] 大腸菌の YecE は FtsZ 阻害タンパク質である
近年,ほぼすべての原核生物に数多くのtoxin-antitoxin (TA) systemと呼ばれる細胞の生育及び細胞死を制御するシステムの存在が明らかになってきた。Toxinは菌体内で発現すると宿主自身に対して毒性を示し,antitoxinはtoxinと複合体を形成しその毒性を中和する。ストレス条件下において,antitoxinはストレス誘導性プロテアーゼにより分解され,toxinが複合体から遊離する。その結果,toxinによる生育阻害が引き起こされる。各toxinの標的は非常に多様である。今回我々は,YecEがtoxin,YecDがantitoxinとして機能する新規 yecD-yecE TA systemを同定した。YecEは機能未知ドメインDUF72を有し,細菌および古細菌に広く保存されていた。YecE誘導後の生育曲線と生菌数を測定し細胞形態の観察を行った。その結果,生育曲線に変化は見られなかったが,細胞は,YecE 誘導 1 時間後にコントロールの 2.08 倍に伸長していた。生菌数はYecE誘導直後から急激に減少し,誘導40分後には0.03%まで減少した。よって,YecEは殺菌的に作用すること,また,YecEはDNA合成,染色体分配または隔壁合成を阻害して細胞伸長を引き起こすと考えられた。そこで,YecE誘導後のDNA合成を測定するとともに染色体の局在を観察した。その結果,YecEの発現はDNA合成および染色体分配を阻害しなかった。よって,YecE誘導後の細胞伸長は隔壁合成阻害によると考え,細菌の隔壁構成成分であるFtsZに注目した。YecEによる生育阻害へのFtsZの影響を調べた結果,FtsZ とYecEの共発現は,大腸菌の生育を阻害しなかった。よって,YecEの標的はFtsZであることが示唆された。現在,in vitroでのYecEによるFtsZ重合への影響を解析中である。