第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

5 病原体と感染症(疫学を含む)

[ODP5D] d. 疫学・分子疫学

[ODP-099/WS9-5] emm 89型化膿レンサ球菌による侵襲性感染症の発症因子の遺伝統計学的探索

○大野 誠之1,2,山口 雅也1,広瀬 雄二郎1,東 孝太郎1,3,竹本 訓彦4,秋山 徹4,住友 倫子1,池辺 忠義5,川端 重忠1 (1阪大・院歯・口腔細菌,2阪大・院歯・クラウンブリッジ,3阪大・院歯・義歯高齢,4国際医療研究セ・感染症制御,5感染研・細菌第一部)

Streptococcus pyogenesは咽頭炎などの非劇症型感染症に加え,壊死性筋膜炎やレンサ球菌性毒素ショック症候群などの致死的な劇症型感染症の原因菌である。本研究では,日本および海外で分離されたemm 89型の全ゲノム情報を用いて,劇症型感染症の発症に寄与する因子の検索を行った。日本および海外で分離された劇症型由来株209株,および非劇症型由来株142株の全ゲノム配列について,Multilocus sequence typingの決定を行った。さらにパンゲノム解析プログラムRoaryを用いてコアゲノムならびにパンゲノムを算出したのち,細菌ゲノムワイド関連解析プログラムPyseerにより病態と相関する一塩基多型と遺伝子の探索を行った。Multilocus sequence typingの結果,全351株のうち246株がsequence type (ST) 101に分類された。日本においてはST101がもっとも多く,次いで多いのは海外で認められないST646であった。パンゲノム解析の結果,351株の持つ遺伝子が4,041種類の遺伝子に分類された。そのうち,1,049遺伝子がコア遺伝子に,2,992遺伝子がアクセサリー遺伝子に分類された。また,コア遺伝子における一塩基多型は20,476箇所検出された。ゲノムワイド関連解析の結果,5個の遺伝子の存在と,鉄イオントランスポーターをコードする遺伝子であるyfiZおよびfhuDとNAD-グリコヒドロラーゼをコードするnga遺伝子における一塩基多型が,それぞれ劇症型感染症と有意に相関した。以上の結果から,emm 89型株のSTは地域により異なる分布を示すことが明らかとなった。また,5遺伝子の存在と,3種類の遺伝子に存在する一塩基多型がそれぞれ劇症型感染症に相関することが示唆された。