第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

6 病原因子と生体防御

[ODP6B] b. 毒素・エフェクター・生理活性物質

[ODP-145] 膣常在乳酸桿菌Lactobacillus inersが膣粘膜バリア機構に与える影響の解析

○嶋田 真帆1,加藤 真友子1,佐藤 史歩1,石井 美妃1,兒玉 侑樹1,伊藤 雅洋1,2,Adam J. Ratner3,岡田 信彦1,Melissa M. Herbst-Kralovetz2,4 (1北里大・薬・微生物学,2アリゾナ大・医-フェニックス・基礎医科学,3ニューヨーク大・医・小児微生物学,4アリゾナ大・医-フェニックス・産婦人科学)

ヒト成年期の膣内には乳酸桿菌(Lactobacillus)が最優勢菌として常在しており,主にL. crispatus, L. iners, L. gasseri, L. jensenii のいずれか一菌種により構成されると報告されている。乳酸桿菌は乳酸を産生することで病原微生物の排除に関与するなど,これまでその存在は有益と考えられてきた。しかしながら近年,L. inersのみ有益作用を保持する一方,子宮頸がん率や早産率を有意に高めるなど周産期疾患の原因となることが明らかにされた。本研究では,L. inersが女性生殖器粘膜バリア機構に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。ヒトの膣上皮細胞(VK2またはV19I)にL. inersまたは疾病予防作用が示唆されるL. crispatusの臨床分離株(HM-637, 638, 704, 708)を感染させ,24時間共培養した。ウェスタンブロティング及び蛍光免疫染色にて,細胞接着因子 E-cadherinの切断の有無を確認・比較した。その結果,L. iners 感染細胞でのみE-cadherinの切断が認められた。本活性は,L. inersより分泌される細胞溶解酵素inerolysinを用いても同様であった。よって,L. inersによるE-cadherin切断活性はinerolysinによることが明らかとなり,本酵素の分泌が粘膜バリア機構に影響を及ぼし,周産期疾患の原因となる可能性が考えられた。