第94回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表(ODP)

7 抗菌性物質と薬剤耐性

[ODP7A] a. 抗菌性物質

[ODP-195/WS10-7] 黄色ブドウ球菌ファージΦMR003投与による感染創部の炎症抑制効果

○須田 智也1,花輪 智子2,田中 真由子2,宮永 一彦3,丹治 保典3,松田 剛明1,4 (1杏林大・医・総合医療学,2杏林大・医・感染症学,3東工大・生命理工学院,4杏林大・医・救急医学)

【目的】感染症治療にバクテリオファージを用いる「ファージ療法」では,ファージの宿主免疫系に及ぼす影響を考慮することが重要であるが,その報告は少ない。本研究ではファージによる宿主への影響を明らかにするため,マウス創傷感染モデルを用いて解析した。
【方法】黄色ブドウ球菌ファージΦMR003は丹治らが2018年に都市下水流入水から単離した。MRSAの菌株には,ΦMR003に感受性を示すKYMR116と117,および非感受性株であるKYMR58を用いた。マウス背部に皮膚切除部位を作成し,各MRSA株を接種して創傷感染モデルとした。MRSA接種から30分後にΦMR003を投与し,生菌数とIL-1β量を測定した。
【結果】感受性株であるKYMR116,117を感染させた場合,ΦMR003投与により48時間後の生菌数は約1/105まで減少した。一方,非感受性株であるKYMR58の感染48時間後の生菌数もファージ投与により約1/10まで減少した。KYMR58感染に対するΦMR003の影響を調べるため,生菌数とIL-1β量を経時的に測定した結果,ファージ投与により感染6時間後の生菌数は約1/10,24時間後は約1/100と減少したが,その後は増加に転じ48時間後には非投与群の約1/10となった。IL-1β量は,ファージ非投与群では24時間をピークに増加したが,投与群では変化がなく,24,48時間後の産生量は非投与群の約1/2であった。さらに,MRSA感染のない皮膚切除部位でもIL-1βの産生が誘導されたが,ファージ投与によりその量は有意に低下した。以上の結果から,ファージは宿主免疫系に対して抑制的に働き,溶菌以外の機構で菌数を低下させることが示唆された。ファージ療法では,宿主免疫系を介したファージの作用を考慮する必要性が考えられた。