[S2-3] 歯周病関連細菌の環境適応と病原性との関連
ヒトの口腔内には700種を超える細菌が常在することが報告されている。口腔細菌にはStreptococcus mutansやPorphyromonas gingivalisなど,う蝕や歯周病への関与が明らかにされているものもあるが,歯周病との関連性が認められるものの明らかな病原因子が同定されていない細菌種も多い。ヒトにおける最大の常在菌叢は腸内フローラであり,糞便1 gあたり1010-1011の菌数が含まれている。歯垢中の細菌密度も同程度と算出されているが,唾液量や唾液成分の日内変動,多様な食事成分への曝露,ブラッシングによる物理的刺激等,腸管に比べるとその環境変動は大きいと考えられる。口腔細菌が常在環境の変化に応じてどのように生理活動を適応させているのか,また,そのような環境適応がヒトへの病原性に関連しているのかは十分に理解されていない。Fusobacterium nucleatumは外毒素など明らかな病原因子を産生せず,ヒトに対する病原性も明確ではない。しかしながら,他の口腔細菌と共凝集し,歯周病の原因となる歯肉縁下プラークの蓄積に関与する歯周病関連細菌として認識されている。腸内フローラのメタゲノム解析により,本菌種が大腸癌患者の便中で増加することが報告され,大腸発がんとの関連が注目されている。本発表では,F. nucleatumがどのような環境変化を認知して他の口腔細菌との共凝集を始めるのかついて検討した結果を紹介し,本菌種の環境適応と病原性との関連性について考察したい。