第94回日本細菌学会総会

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シンポジウム

[S2] 病原細菌の宿主適応―細菌は病気を起こさせたい訳ではない?

2021年3月23日(火) 09:15 〜 11:45 チャンネル3

コンビーナー:三室 仁美(大阪大学)

[S2-4] 大腸菌の宿主適応と病原性進化

○小椋 義俊 (久留米大・医・基礎感染医)

­大腸菌は腸管内常在菌であり,様々な脊椎動物を宿主としている。大腸菌がジェネラリストとして多様な宿主間を伝播し自由に定着できるのか,もしくはスペシャリストとして特定の宿主に適応したクローンや系統が存在するのかはまだ未解明である。また,一部の大腸菌は病原性を示す。ヒトに病気を起こす大腸菌は下痢原生大腸菌と腸管外感染性大腸菌に大別され,下痢原生大腸菌はさらに少なくとも5つの病原型に分類されるが,それぞれは保持する病原因子や引き起こす症状が異なる。本来常在菌である大腸菌が,どのような環境でどのような選択圧の下にどのようなプロセスを経て各病原型の病原性大腸菌に進化したのかはほとんど明らかにされていない。
­我々は,これまでに大規模なゲノム比較解析から,ヒトとウシの常在大腸菌はそれぞれの宿主に適応した系統が異なる大腸菌であること,下痢原生大腸菌の一つである腸管出血性大腸菌はウシ常在大腸菌から進化してきたこと,腸管外感染性大腸菌がヒト常在大腸菌に由来していることなどを明らかにしてきた。ウシ腸内では,大腸菌に志賀毒素などの病原因子を蓄積させる選択圧が存在し,蓄積された病原因子が協調して働くことが大腸菌のウシ腸内での生存に役立っていることを示唆する結果も得ており,我々は腸管出血性大腸菌のヒトへの病原性は菌にとっては意図せず偶発的に発生している可能性を考えている。一方,腸管外感染性大腸菌は,ヒトへの適応能をより高める進化を遂げたことで結果として病原性を示すようになったと想定している。各大腸菌が進化の過程で特異的に獲得した遺伝子機能を詳細に調べることでこれらの仮説について考察したい。