[S3-3] "Domesticated" viruses in fungal cells
ウイルスは細胞に寄生し,その機能を利用して増殖する遺伝因子である。そのため,寄生される側の細胞にとってウイルスは厄介な存在であると理解されてきた。しかし,少なくとも一部のウイルスは宿主細胞と運命共同体となり,宿主細胞の生存に寄与することが知られるようになった。真菌に内在する運命共同体ウイルスは,キノコの子実体形成不良の要因を探索する過程で初めて見出された。それ以降,パン酵母や植物病原菌など多様な系統群の真菌からも報告されるようになり,現在では単離された真菌株の数十%が運命共同体ウイルスを保持していることが知られている。これらウイルスの大部分はRNAをゲノムとして有しており,宿主真菌細胞から細胞外に出ることなく,細胞分裂や細胞融合の際に娘細胞に伝わっていく。このような真菌ウイルスが宿主細胞にもたらす影響を調査するため,野外から単離してきたウイルス保有株と,そこからウイルスを除去した治癒株を比較する研究が進められてきた。その結果,生育性状をはじめ,二次代謝や酵素生産など様々な細胞機能を変化させるウイルスが見出されている。我々のグループでは,ウイルスが糸状菌の休眠二次代謝遺伝子を活性化させる天然因子であることも報告した。これまでの知見を俯瞰すると,真菌ウイルスは真菌のゲノムを変化させることなくその表現型多様性を生み出すスイッチのような機能を有しているように考えられるが,いまだ一般解は得られていない。本講演ではこのような宿主と運命共同体として生きるウイルスはどこからきて,どこに向かうのか,最新の取り組みも紹介しつつ,議論を深めたい。