[S3-4] 真菌の病原性を抑制するマイコウイルス
アスペルギルスやカンジダといった真菌は,環境中および皮膚に常在する菌でありながら,免疫力の低下したヒトの体内において「深在性真菌症」を引き起こして致死的な影響を及ぼすことが知られている。しかし,真菌がヒトと同じ真核生物であることから副作用の問題の解決が難しく,新規抗真菌薬の開発は滞っている。近年,細菌感染症治療においては多剤耐性菌の問題から,バクテリオファージを用いたファージセラピーが見直され,開発が進められている。真菌においてもマイコウイルスと呼ばれるウイルスが存在し,農業分野では活用が始まっているが,ヒト病原真菌のマイコウイルスの報告はごく少なく,マイコウイルスを利用してヒトの真菌症を制圧することに関しては,期待されつつもほとんど研究がなされていないのが現状である。我々はこれまでに病原性糸状菌Aspergillus fumigatusに存在する4種のマイコウイルスを検出し,そのうち2種のマイコウイルスが,マウスにおけるA.fumigatusの病原性を抑制することを明らかにした。さらに,ウイルスがコードする遺伝子を個々に発現させ,病原抑制機能を担うウイルス遺伝子の特定を行った。これらの研究結果をもとに,今後のマイコウイルスの活用方法の可能性について考察したい。