[S4-5] Salmonella can colonize the gut by exploiting intestinal inflammation
非チフス性サルモネラは感染性下痢症の主要な腸管病原菌である。病原体の腸感染により誘導される炎症は,病原体の排除に寄与する防御反応であるが,サルモネラはこの炎症反応を恰も搾取するかのように利用することによって,競合する腸内細菌に打ち勝ち,腸管内に定着する。これまでの多くの研究結果より,サルモネラの多様な腸管内定着メカニズムが明らかになったが,その全貌は未だ,不明である。そこで,我々は,サルモネラの腸管内定着メカニズムを理解することによって,感染性下痢症に対する新たな制御法の開発に向けた分子基盤の確立を目指し,腸炎モデルマウスを用いた手法により,サルモネラの腸管内定着に関わる宿主側および菌側因子を明らかにしてきた。粘膜上皮由来の抗菌レクチンRegIIIβは,その殺菌作用より防御因子としての役割が期待されたが,腸内ビタミンB6量の低下をひき起こす結果,むしろ,サルモネラの腸感染に有利に働いた。一方,サルモネラは二成分制御系CpxRAを介して,腸内の浸透圧や抗菌ペプチドを感知し,炎症に適応することによって,腸管内に定着した。また,炎症を起こした腸管内では,サルモネラは特定のペプチドグリカンアミダーゼが関与する細胞分裂を行うことで,胆汁酸の殺菌より逃れ,持続的に腸管内に定着した。さらに,ペプチドグリカンアミダーゼを活性化するプロテアーゼは,この細胞分裂に加え,走化運動を制御することによって,サルモネラの腸管内定着に寄与することが明らかになった。本研究で同定したサルモネラ腸管内定着に関わる因子をターゲットとした制御が,感染性下痢症の新たな治療・予防法の開発に繋がることを期待している。