第94回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S6] 細胞外マトリックスを認識する接着因子~病原細菌の感染戦略について~

2021年3月24日(水) 09:15 〜 11:45 チャンネル4

コンビーナー:松永 望(岡山理科大学)

[S6-1] 宿主細胞外マトリックスを標的とするレンサ球菌の分子機構とその病原性

○小倉 康平1,橋本 渉2 (1金沢大・新学術,2京都大・農学)

ある種のレンサ球菌(Streptococcus)は,宿主の細胞外マトリックスの主要成分であるグリコサミノグリカン(ヒアルロン酸)を定着や分解するための標的とする。肺炎球菌(S. pneumoniae)がヒアルロン酸をヒアルロン酸リアーゼ(HysA)でオリゴ糖に断片化し,資化することはよく知られている。本シンポジウムではヒアルロン酸に作用するレンサ球菌の分子機構とその病原性との関連について紹介する。
(1) 分子機構 レンサ球菌(S. pneumoniae, S. agalactiae, S. pyogenes)は,断片化ヒアルロン酸をホスホトランスフェラーゼ系で細胞内に取り込み,不飽和グルクロニルヒドロラーゼ(UGL)により単糖に分解する。生じた単糖(不飽和ウロン酸)は代謝酵素(イソメラーゼ,レダクターゼ等)の作用を受けて,ピルビン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸に変換される。これらの一連の酵素・輸送体はゲノム上で一つの遺伝子クラスターにコードされ,ヒアルロン酸により誘導発現する。
(2) 病原性 レンサ球菌S. dysgalactiae subsp. equisimilis(SDSE)は,マウス腹腔内感染時にHysAとUGLを高発現させる。HysAをコードする遺伝子を欠失させたSDSE変異株は,マウス体内でUGLを発現せず,またその致死性は野生株と比較して大幅に低下する。皮膚の創傷治癒過程では,周辺の細胞外マトリックス中のヒアルロン酸量が増大するが,マウス皮膚創傷部位に野生株ならびに変異株を感染させると,野生株でのみ感染2日後における皮膚組織中残存ならびに血清IL-6値が増大する。以上から,SDSEは皮膚細胞外マトリックス中のヒアルロン酸を資化することで皮膚上にて生育し,病原性を発揮することが示された。