第94回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S7] 細胞内センサーによる病原体認識の新機軸

2021年3月25日(木) 09:15 〜 11:45 チャンネル1

コンビーナー:野澤 孝志(京都大学),小川 道永(国立感染症研究所)

[S7-2] 細胞膜損傷を認識するオートファジーレセプターの同定とサルモネラに対するゼノファジーにおける役割

○森田 英嗣 (弘前大学農学生命科学部分子生命科学科)

細胞内に侵入したウイルスや細菌などの病原体の一部は,エンドソーム膜を破壊し細胞質へ侵入する。このような病原体は細胞側の選択的オートファジーの標的となる。最近,病原体に対する選択的オートファジーは,病原体そのものを認識しているだけでなく,細胞質への侵入に伴う膜の損傷というイベントを標的にしていることが示されつつある。我々はこれまでに,選択的オートファジーの標的認識に関与するオートファジーレセプターに着目し,それらに共通した特徴であるLIR (LC3 interacting region) モチーフを持つ因子群を同定し,その機能解析を進めてきた。そのうちのひとつであるLIRP8は,LLOMeなどの薬剤やサルモネラ感染によって誘導される損傷膜に集積することから,損傷膜オートファジーのレセプターとして機能している可能性が高い。また,本研究では,この因子がLIRを介して直接LC3ファミリーまたはGABARAPファミリーと直接結合し,オートファジーを介してリソソームに輸送されること,この因子の欠損細胞では,損傷膜の除去が阻害され,細胞内サルモネラ増殖が亢進していることを明らかにした。これまでの報告より,炎症性腸疾患であるクローン病の一部の患者では,この因子をコードする遺伝子領域に変異が認められることから,クローン病病態発症にこの因子を介した膜損傷に対する選択的オートファジー機構の破綻が関係している可能性が高い。