[SL-2] Muse細胞のもたらす新しい医療
Muse細胞は生体内に存在する非腫瘍性修復多能性幹細胞で,骨髄から末梢血に定常的に動員され,各臓器に分配後自発的な分化で傷害細胞や死細胞を置換し,組織恒常性に寄与すると考えられている。sphingosine-1-phosphate (S1P) は普遍的な臓器傷害シグナルで,Muse細胞は S1P receptor 2を発現するため,選択的に傷害部位に集積し修復する。しかしMuse細胞の活性が低下していたり動員数が不足する場合には,数々のモデル動物が示すように,外からMuse細胞を点滴投与し数を増やすことで,有効な組織修復が可能となる。Muse細胞は臨床応用に当たって,遺伝子導入による多能性獲得やサイトカイン等による分化誘導や,投与における外科的手術も不要である。胎盤の持つ免疫抑制効果に類似する機能を有するため,HLA適合や免疫抑制剤投与を必要とせずにドナーMuse細胞をそのまま投与可能である。前臨床試験で他家Muse細胞が半年以上排除されずに,機能的な細胞として組織内に生着することが確認されている。病原性大腸菌O-157による急性脳症においてもMuse細胞の点滴投与による救済効果が確認されている。現在ドナーMuse細胞の点滴による心筋梗塞,脳梗塞,表皮水疱症,脊髄損傷,新生児低酸素性虚血脳症への治験が行われており,安全性と有効性を示すデーターが発表されている。HLA適合や免疫抑制剤を必要とせずに,ドナー細胞を点滴するだけで修復治療が可能となれば,現在の医療を大きく変えることが可能となる。Muse細胞の今後の展望に関して考察してみたい。