[WCB-11] Porphyromonas gingivalisはβ-カテニンシグナルを介して歯肉上皮細胞に上皮間葉転換を誘導する
Porphyromonas gingivalisは歯周疾患罹患歯肉において高頻度に検出され,重要な歯周病原細菌であると考えられている。一方,歯周組織において細菌と直接対峙し,細菌の組織侵入に対する最前線の防御壁として機能する宿主側の細胞として,歯肉上皮細胞がある。P. gingivalisと上皮細胞との間に生じる複雑な相互作用については数多くの研究がなされており,近年にはP. gingivalis感染がヒト歯肉上皮細胞において上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal Transition : EMT)と呼ばれる現象を誘導する可能性が報告されている。EMTとは上皮細胞が間葉系様細胞に変化して運動性を獲得する過程をいい,EMTの過剰な促進は歯肉上皮細胞の上皮としての特性を失わせ,歯肉の物理的・生物学的なバリア機能を大きく破綻させる可能性がある。しかし,P. gingivalisによるEMT誘導の分子機序は未だ不明のままである。そこで本研究では,P. gingivalisによるEMTの誘導メカニズムの解明を目指した。EMT誘導転写因子群のうち,P. gingivalis 感染においてZEB2が10~15倍と極めて高い発現上昇を示した。また,β-カテニンに対する阻害剤およびsiRNA処理は,P. gingivalisによるZEB2発現を有意に抑制した。一方,LEF/TCFファミリーの機能抑制はZEB2発現に影響せず,FOXO1に対するsiRNA処理はZEB2誘導を有意に抑制した。これらの結果からP. gingivalisによるZEB2の発現誘導にはβ-カテニンとFOXO1が重要な働きを示すことが明らかとなり,このP. gingivalis感染に特徴的なZEB2を介したEMT誘導メカニズムの解明が歯周疾患の成立機序に新たな視点を加える可能性が示唆された。