第94回日本細菌学会総会

講演情報

細菌学若手コロッセウム

[WCB] 若手研究者による最先端研究:細菌学の明日を切り拓く若人たちの発想と挑戦、今此処に!

2021年3月23日(火) 16:00 〜 21:00 チャンネル2

コンビーナー:山口 雅也(大阪大学),山崎 聖司(大阪大学),高野 智弘(国立感染症研究所),一色 理乃(早稲田大学)

共催:細菌学若手コロッセウム 準備委員会

[WCB-6] 国内の水系環境から検出された薬剤耐性グラム陰性桿菌の全ゲノム解析

○林 航1,長野 由紀子2,長野 則之1 (1信大院・医理工・医療生命科学,2名大院・医・細菌学)

【目的】薬剤耐性菌の伝播・拡散における水系環境の役割が注目されている。本報では未だ調査が不十分な流入下水及び医療施設水系環境に由来する薬剤耐性菌の解析知見を報告する。
【材料と方法】下水処理施設の流入下水,医療施設の下水及び病棟シンクから検出された薬剤耐性グラム陰性桿菌を対象に全ゲノム解析を行った。
【結果と考察】流入下水ではヒト臨床上重要なCTX-M-15,CTX-M-27産生Escherichia coliに加え,国内のヒト臨床材料では確認されていないキメラ型ESBL CTX-M-64やCTX-M-123産生E. coliが検出された。blaCTX-M-64はISEcp1に担われ染色体上に存在しており,blaCTX-M-123はIncI1プラスミド上に担われていた。また,プラスミド性コリスチン耐性遺伝子mcr-1保有E.coliヒト病原性クローンも認められた。mcr-1を担うIncI2またはIncX4プラスミドの全塩基配列は国内外で検出されたヒト臨床及び家畜由来コリスチン耐性E. coliが保有するプラスミドと高い配列類似性を示した。病院下水では国内で極めて稀なGES-5またはGES-24産生Klebsiella spp.,Enterobacter cloacae complexが複数回継続し検出され注目された。また,患者からNDM産生菌の検出歴がない医療施設の病棟シンクからNDM-1産生Acinetobacter pittiiが検出された1年後に同一病棟の入院患者からNDM-1産生A. lwoffiiを検出した事例が認められた。これらが保有するblaNDM-1プラスミドの全塩基配列は高い配列類似性を示したことから環境中でのプラスミドの水平伝播及び医療関連感染が示唆された。水系環境中の薬剤耐性菌が市中感染・医療関連感染を引き起こす可能性があり,今後さらに注視していく必要がある。