第94回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[WS10] 選抜ワークショップ:抗菌性物質・薬剤耐性

2021年3月25日(木) 12:45 〜 14:45 チャンネル4

コンビーナー:中山 浩伸(鈴鹿医療科学大学),西野 邦彦(大阪大学 産業科学研究所)

[WS10-2/ODP-219] ldhA発現を起点とした大腸菌persister形成はrecA発現を介したDNA修復によって起こる

○大野 友梨乃,山本 尚輝,常田 聡 (早大・先進理工・生命医科)

【目的】感染症の慢性化や再発の原因の一つとして,非遺伝的に抗菌薬から生き残るpersisterという表現型が注目されている。我々はldhAを発現した大腸菌がpersisterを誘導すること,およびldhAを介して細菌内のエネルギーが増加することを明らかにした。そこで本研究では,ldhA発現の後に起こるエネルギー代謝を介したどんなイベントがpersister形成に影響を与えるのかを明らかにする。
【方法】ATPを消費する既往のpersister経路に関連する遺伝子発現量を測定し,ldhA発現によるpersister形成に関与するか調べた。発現量が増加したSOS応答経路を制御する遺伝子recAの欠損株を作成し抗菌薬処理後の生存率を比較した。さらに遺伝子を切断することでSOS応答を誘導するヒドロキシラジカルの産生量を測定した。
【結果】SOS応答の制御遺伝子recAの発現量がldhA過剰発現株において有意に増加し,recA欠損株にldhAを過剰発現させるとldhA発現によるpersisterの増加が見られなくなった。このことから,ldhA発現によるpersister形成にはrecAを介したSOS応答が関わることが示唆された。抗菌薬処理前にはldhA過剰発現株のヒドロキシラジカル産生量に変化は見られず,recA発現量の増加はヒドロキシラジカル量の増加に応答した結果ではないことが予想された。一方,抗菌薬処理中はコントロール株と比較して減少した。既往研究では高濃度のヒドロキシラジカルは殺菌効果を示すこと,recAを欠損すると感受性が高くなることが報告されている。したがってldhAが発現するとrecA発現を活性化させることでDNA修復応答を誘導し生存に寄与する一方,ヒドロキシラジカル産生を抑制することでDNA損傷を抑制していると推察される。