[WS3-4] 生物種間の関係性ネットワークと微生物叢設計
生物工学においては,従来,遺伝子を操作の単位として生物個体(や生物種)のレベルで生物機能を最適化するアプローチが主流であった。しかし,遺伝子間相互作用におけるトレード・オフ等の制約により,1つの生命体(ゲノム)に盛り込める生物機能には何らかの限界があると推測される。そこで注目されるのが,多数の微生物種で構成される微生物生態系の機能である。DNAシーケンシングのコストが劇的に低下した現在,1つの微生物生態系を構成するすべての種についてゲノム配列を決定することもできるようになってきた。しかし,いかに個々の種に関する情報を得たとしても,それだけでは微生物生態系で起こる現象を理解することも,生態系レベルにおける生物機能を制御することもできない。本発表では,微生物種間の相互作用を俯瞰的にとらえる一連の技術について解説する。本研究グループではこれまで,細菌や真菌で構成されるさまざまな多種システムを対象とし,情報科学や理論生態学,ネットワーク科学を融合したアプローチでの研究を展開してきた。その過程で,微生物生態系内で中核的な役割を果たす種を推定する手法や,生態系レベルにおける生物機能を最適化する手法を開発してきた。生物種間の関係性を俯瞰的に分析するこうした手法は,ヒト腸内細菌叢や植物共生微生物叢など,様々な環境における微生物生態系に適用することが可能であり,生態系という高次レベルでの生物機能を設計・制御する新たな異分野融合科学の土台となることが期待される。