第94回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[WS5] 新たな視点から口腔内細菌を見つめる―個々の病原体から菌叢解析まで―

2021年3月24日(水) 16:00 〜 18:00 チャンネル1

コンビーナー:大原 直也(岡山大学),小松澤 均(広島大学)

[WS5-4] 代謝変動から口腔細菌叢Dysbiosisを読み解く

○久保庭 雅恵 (大阪大・歯・予防)

メタボロミクスは,ゲノム情報発現過程の最下流に位置しているオミクスである。それゆえ,最も表現型に近く,疾病の診断や重症度評価に直結する新規バイオマーカーを探索する上で,現在望みうる最高の解析手法の一つである。さらに,基礎研究による疾患メカニズム解明を推進する鍵技術としても注目されている。我々が研究対象としている歯周病では,歯周組織と,そこに近接して存在する歯肉縁下細菌叢よりなる歯肉縁下生物共同体(コンソーシアム)において,疾患重篤度の変化に伴う酵素活性の変動が起こり,歯周病特有の代謝物のパターン(メタボロームプロファイル)へと変化し,それが唾液や血液にも反映することが予想される。そこで,歯周病の病態を定量的に表現し得るPeriodontal Inflamed Surface Area (PISA) を目的変数とし,唾液を試料としたメタボロミクスを実施することにより,歯周病に由来する炎症の予測モデルの構築を試みた。その結果,精密な予測モデルの構築に成功し,このモデルへの寄与値から,炎症程度が進むにつれ唾液中で増加する代謝物を同定した。また,興味深いことに,この研究で炎症予測モデルへの高い寄与が明らかとなった代謝物のなかには,我々のin vitro研究により,歯肉縁下細菌叢が菌種構成を変化させ,歯周病原性を高めていく過程において重要な役割を果たしていることが示されている代謝物が含まれていた。本ワークショップでは,臨床研究と基礎研究にまたがるメタボロミクス研究によりこれまでに得られた成果と,今後の展望を中心にお話しさせていただきたいと考えている。