第94回日本細菌学会総会

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ワークショップ

[WS5] 新たな視点から口腔内細菌を見つめる―個々の病原体から菌叢解析まで―

2021年3月24日(水) 16:00 〜 18:00 チャンネル1

コンビーナー:大原 直也(岡山大学),小松澤 均(広島大学)

[WS5-5] 消化管内細菌叢がもたらす生体恒常性と疾患

○福田 真嗣1,2,3,4 (1慶大・先端生命研,2神奈川産技総研,3筑波大・TMRC,4メタジェン)

ヒトの消化管内にはおよそ1,000種類で38兆個にもおよぶとされる細菌群が生息しており,これらの集団(細菌叢と呼ぶ)は宿主細胞と密接に相互作用することで,複雑な微生物生態系を形成している。特に腸内には多種多様な細菌が生息しており,産生する栄養素や代謝物質,さらにはその構成成分を介してヒトの健康維持に寄与することが知られている。一方,薬剤摂取やストレス,あるいはライフスタイルや食習慣の変化など,様々な環境要因により腸内細菌叢のバランスが崩れると,大腸癌や炎症性腸疾患といった腸そのものの疾患に加えて,自己免疫疾患や代謝疾患といった全身性疾患に繋がることも報告されている。従ってその重要性から,腸内細菌叢は異種生物で構成される体内における「もう一つの臓器」とも捉えられる。われわれはこれまでに,腸内細菌叢の遺伝子情報と代謝動態に着目したメタボロゲノミクスアプローチを開発し,腸内細菌叢から産生される短鎖脂肪酸である酢酸や酪酸が,それぞれ腸管上皮細胞のバリア機能を高めて腸管感染症を予防することや,免疫応答を抑制する制御性T細胞の分化誘導を促進することで,大腸炎を抑制することを明らかにした。他にも,腸管感染症の予防には腸内細菌叢由来コハク酸を介した腸内細菌叢の成熟化が重要であることや,早期大腸がん患者の便から口腔内細菌が特徴的に検出されることを見出し,それらに基づく早期大腸がん診断基盤技術も開発した。本講演では,口腔内から腸内まで消化管全体の細菌叢やその代謝物質がもたらす生体恒常性や疾患との関連について紹介する。