[WS8-5] 低酸素環境におけるクラミジア・トラコマティスL2の細胞内適応機構
Chlamydia trachomatis (Ct) は健康女性の腟頸管部に10%程度の割合で感染し放置すると感染は上向性に卵管へと拡大し不妊となる。最新のメタ解析からCt感染が子宮頸癌のリスク因子であることが明らかになった。それ故これら病態解明を目的としてCtの細胞内適応機構の研究が精力的に行われいる。しかし低酸素に維持されている腟頸管粘膜面を反映した実験は少ない。そこで私達は,2%低酸素でのCtL2(L2434/Bu株)の株化ヒト上皮系細胞内での動態について検討した。その結果,低酸素では,CtL2の細胞内増殖が100倍程度促進することを発見した。感染によりHIF-αの発現が安定化しp53は分解された。またPI3K阻害剤(LY294002)添加はその発育促進を阻害した。さらに低酸素での感染はAKT (Ser473) のリン酸化が促進し,PI3K阻害剤添加によりそのリン酸化は減弱した。一方,Ctはエネルギーを感染細胞に依存するので,その発育にミトコンドリア(Mt)の果たす役割は極めて重要である。そこでEtBr暴露により確立したMt機能不全細胞にCtL2を感染させ細胞内での動態を観察した。その結果,通常酸素におけるMt機能不全細胞内でのCtL2の発育は,正常細胞に比べ100分の一程度まで低下したが,低酸素ではMt機能不全細胞内でも正常細胞と同様にその発育は回復した。またROS阻害剤DPI添加は,Ctの細胞内発育を酸素分圧に関わらず阻止した。このように低酸素でのCtL2は,感染細胞のPI3K・AKT経路を活性化しp53の分解を介してアポトーシス誘導を抑制することで細胞内での増殖促進を担保していると考えられた。また低酸素では,CtのMt依存度は低いが,その細胞内発育にはROSが必要であることが示唆された。