[YRS2-4] 民間企業で学術的研究を行うための戦略
民間企業の研究者もアカデミアの研究者と同じく,研究テーマを持ち,細菌学分野の場合,ピペットを握り,クリーンベンチで作業をする。しかしながら,大学等の研究とは大きく異なる点は,目的が学術的知見の集積ではなく,所属企業の利益創出の一点に絞られている点である。それ以外のことは基本的には一切認められない。経営層が利益に繋がらない,例え利益が見込めても経営戦略に合致しないと判断した研究テーマは,ほぼ確実に継続不可能となる。必然的に,知的好奇心のみに基づく学術的研究テーマは実施困難となり,実利的な研究テーマが大半を占める。しかしながら,そのような環境にも関わらず,学術的研究を実施している企業研究員は意外と多い。演者もその一人で,主として「腸内細菌の代謝産物が宿主の健康に及ぼす影響」を研究している。自ら研究テーマを設定し,所属企業もそのテーマを容認している。アカデミアのPIのように原著論文を投稿し,学会発表を行い,科研費を獲りにいき,ポスドクを雇用し指導する。では,どのようにして企業内で学術的研究が実施できる環境を創り出したのか?改めて考えてみた結果,本シンポジウムの副題になっている「テーマの探し方,付き合い方」が重要と気が付いた。すなわち,企業利益に繋がりそうな学術的研究テーマを提案し,その成果物を使って実際に利益を創出することに尽きる。本講演では,修士卒で入社した演者が自律的に設定した学術的テーマで研究ができる立場になるまでを,時系列的に振り返りながらターニングポイントとなったテーマとその付き合い方を紹介する。