第94回日本細菌学会総会

講演情報

若手研究者支援シンポジウム

[YRS5] 産業化を組み込む細菌学の生存戦略

2021年3月25日(木) 09:15 〜 11:45 チャンネル2

コンビーナー:島本 整(広島大学),二川 浩樹(広島大学)

共催:広島大学 日本食・発酵食品の革新的研究開発拠点

[YRS5-3] 乳酸菌由来抗菌ペプチドの口腔ケアへの応用

○永利 浩平 (株式会社優しい研究所)

乳酸菌は,古来,人の生活に深く関与してきた細菌の一つで,ヨーグルト,チーズ,漬物,みそ,しょう油等の伝統的発酵・醸造食品の風味や嗜好性の向上,その保存性の向上に大きく寄与している。とくに,乳酸菌による食品保存性の向上には,乳酸や様々な抗菌性物質が関与している。その中の一つに,バクテリオシンと呼ばれる抗菌ペプチドが存在し,グラム陽性菌に対して強い抗菌活性を示し,体内で消化・分解される安全な抗菌ペプチドである。最も代表的なものは,34個のアミノ酸からなるナイシンAで,日本を含む世界50ヶ国以上で食品保存料として利用されている。ナイシンAは産業界に多大な被害を及ぼす有害微生物に有効で,かつ耐性菌を誘導しにくい特徴を合わせ持ち,天然の安全な抗菌物質として注目されている。しかし,既存の市販ナイシンAは生産に塩析法を用いるため純度が低く,かつ抗菌スペクトルが狭いという課題があり,応用範囲が限られている。このような背景の中,我々はナイシンAの医療分野への応用を目指し,ナイシンAの大量生産法および高度精製技術の開発,ナイシンAを利用した天然抗菌剤および製剤化応用技術の開発を行った。その結果,化学合成殺菌剤などを含有する従来の口腔ケア剤に不安を持つ,誤嚥の恐れのある人,吐き出しやうがいが難しい高齢者や障害者などに最適な天然成分100%の飲み込んでも安全な口腔ケア剤を開発した。天然の独自開発製剤により,天然成分で虫歯・歯周病菌及びカンジダ菌に効く製品で,現在ペット用まで拡充した。また,米国・中国・EU・台湾など11カ国で販売を開始し,着実な国際展開も進めている。