[ODP-013] 腸球菌の線状プラスミドに関する分子疫学解析
【緒言】プラスミドの水平伝播は,腸球菌における薬剤耐性遺伝子の伝播に重要な役割を果たしている.我々は2019年に日本国内のバンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) から線状プラスミド (pELF1) を発見・報告し,次いで2020年に国内医療機関における院内アウトブレイク事例 (pELF2) を報告した.現在までに腸球菌の線状プラスミドの報告は極めて少なく,その網羅的な分子疫学解析の報告はない.
【方法・結果】臨床分離腸球菌1769株を対象に,PCR法により線状プラスミドの保有状況を確認したところ,16株 (VRE 13株,VSE 3株) の線状プラスミド保有腸球菌を検出した.これらは全てEnterococcus faeciumであり,日本国内の様々な地域から検出されていた.WGS解析を実施し両末端の塩基配列をpELF1/2と比較をすると,極めて類似性が高いことが確認された.またこれら線状プラスミドのコア遺伝子の配列・構造は極めて保たれており,一部の線状プラスミドでは薬剤耐性遺伝子を含んだmobile genetic elementが挿入され多様性が生み出されていた.Public database検索からは,同様の推定線状プラスミドが複数確認され,全世界に広く分布していることが示唆された.腸球菌における線状プラスミドのfitness costを解析したところ,E. faeciumにおいて最もfitness costが小さく,非選択培養下においても極めて安定的に保持された.
【考察】腸球菌の線状プラスミドは国内のみならず,全世界に普遍的に存在しており,またその一部は薬剤耐性遺伝子を保有していた.線状プラスミドはVREにおいて最多の菌種であるE. faeciumで最も安定的に保持され,更に高頻度接合伝達性を示すことから臨床上重要なプラスミドであると思われた.