第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP8] 2. 生態-c. 生育環境・培養条件

[ODP-038/W3-1] Delftia属細菌はアルカリストレスを介してROS産生を誘導することで表皮ブドウ球菌の増殖を抑制する

大久保 友隆1,2,松本 靖彦1,張 音実1,杉田 隆1 (1明治薬大・微生物,2明治薬大・分析化学)


【背景】皮膚常在菌であるS. epidermidis はアトピー性皮膚炎 (Atopic dermatitis: AD)の増悪に関与するS. aureusの増殖を制御し,健常な皮膚環境の維持に貢献する.ADの増悪期にはS. epidermidisS. aureusのバランスが破綻し,炎症が増悪すると考えられている.AD患者の皮膚上からグラム陰性桿菌であるDelftia acidovoransが検出される.本研究ではD. acidovoransS. aureusS. epidermidisの増殖に与える影響およびその機構を検証した.
【方法および材料】吸光度の値からS. epidermidisおよびS. aureusの増殖を測定した.RNAシーケンスによりS. epidermidisの網羅的な遺伝子発現変動を解析した.蛍光プローブを用いてS. epidermidisのROS産生量を測定した.
【結果および考察】D. acidovorans培養上清はS. aureusと比較してS. epidermidisの増殖を顕著に抑制した.D. acidovorans培養上清の曝露によってS. epidermidisのTCA回路関連遺伝子の発現が上昇した.またD. acidovorans培養上清によってS. epidermidisのROS産生が誘導された.TCA回路の阻害剤およびラジカルスカベンジャーの添加によってD. acidovoransS. epidermidisに対する増殖抑制作用が減弱した.D. acidvorans培養上清は高濃度のアンモニアを含み,培地と比較してアルカリ性を示した.アルカリ剤はD. acidovorans培養上清と同様にTCA回路依存的にROS産生を誘導し,S. epidermidisの増殖を抑制した.これらの結果はD. acidovoransがアンモニアによるアルカリストレスを介してTCA回路依存的なROS産生を誘導し,S. epidermidisの増殖を抑制することを示唆している.
【会員外共同研究者】小笠原裕樹