第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP10] 3. 生理・構造-a. 代謝・生合成・メタボローム

[ODP-046] 酵母における超硫黄分子による寿命制御

Minkyung Jung1,西村 明2,井田 智章1,松永 哲郎1,守田 匡伸1,高木 博史2,本橋 ほづみ3,赤池 孝章1 (1東北大院・医・環境医学,2奈良先端学大・バイオ,3東北大・加齢医学研究所・遺伝子発現制御)


【背景】我々は,システインパースルフィド(CysSSH)のようにチオール基に過剰な硫黄原子が付加した超硫黄分子(supersulfide)が生体内で豊富に存在し,強力な抗酸化活性やレドックスシグナル制御因子として機能することを見出した.また,翻訳関連酵素の一つであるcysteinyl-tRNA synthetase(CARS)がシステインからピリドキサールリン酸(PLP)依存的にCysSSHを合成し,その合成経路は種横断的に保存されていることを発見した.しかし,超硫黄分子の生理機能については不明な点が多く残っている.本研究では,真核生物のモデル生物として出芽酵母を用いて超硫黄分子の生理機能の解明を行った.
【方法・結果】まず,CARSのPLP結合部位であるリジンをアラニンに置換し,細胞内の超硫黄分子レベルを低下させた変異株を作製した.その変異株を用いて表現型を解析したところ,ミトコンドリアのエネルギー代謝異常とともに,寿命が顕著に低下していることを見出した.また,低下した寿命は超硫黄分子のドナーを添加することによってほぼ完全に回復することが示された.これらのことから,CARSによって産生される超硫黄分子は内因性の寿命制御因子であることが示唆された.
【考察】今後,CARSによる寿命制御機構を解明することで,人の抗老化戦略の構築とエネルギー代謝異常による各種疾患(ミトコンドリア病,がん,生活習慣病等)の発症機構の予防・治療法の開発に寄与することが期待される.