第95回日本細菌学会総会

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オンデマンド口頭発表

[ODP16] 4. 遺伝・ゲノミクス・バイオテクノロジー-a. ゲノミクス・バイオインフォマティクス・システムズバイオロジー

[ODP-079] ヘリコバクターシネジはH. cinaedi/canicola/magdeburgensis complexの中のヒトに適応した系統である

後藤 恭宏1,熱田 雄也2,谷口 喬子3,西田 留梨子1,中村 佳司1,小椋 義俊4,三澤 尚明3,林 哲也1 (1九州大・医・細菌,2都立駒込病院・血液内科,3宮崎大・産業動物防疫セ,4久留米大・医・基礎感染医)


ヘリコバクターシネジHelicobacter cinaediは腸管ヘリコバクターの一つであり,免疫不全者だけでなく免疫正常者においても菌血症などを起こす.H. cinaedi様の菌株は動物からも分離され,イヌから分離された菌株は別種(H. canicola)であることが提唱されている.しかし,H. cinaediとこれらの動物由来株の遺伝的な違いについてはほとんど解明されていないため,H. cinaedi/canicola/magdeburgensis(HCCM) complexに属する67株の比較ゲノム解析を行った.HCCM complexは4つのクレード(clade I-IV)で構成され,そのうち,H. cinaedi sensu strictoに相当するclade Iはヒト由来株のみを含み,ヒトに適応した系統であると考えれられた.この結論は,本系統への薬剤耐性関連変異の蓄積によっても支持される.clade Iは比較的大きなゲノムサイズをもち,CRISPR-Cas system,Toxin-Antitoxin system,制限修飾系等の遺伝子水平伝播を示唆する遺伝子や,競合菌種の排除により腸内での定着に貢献すると考えられる高度に多様化したVI型分泌系をコードするゲノム領域を保有していた.また,ヒトの腸内メタゲノムデータからH. cinaedi配列を効率的に検索する手法を開発し,HCCM complexを含むヒト糞便メタゲノムサンプル(健常人および大腸がん患者由来)を同定することができた.いずれのサンプルでも全ゲノムをほぼカバーする配列情報が得られ,全ての株が clade Iであった.この結果も,H. cinaedi sensu strictoがHCCM complexの中でヒトに適応した系統であることを支持する.