第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP18] 4. 遺伝・ゲノミクス・バイオテクノロジー-c. 遺伝子発現制御・トランスクリプトーム解析

[ODP-088] 腸内細菌科細菌のグルタミン合成酵素遺伝子mRNA の3'UTR による転写後調節

宮腰 昌利,ルジャー 朝紀 (筑波大・医・感染生物学)


腸内細菌科細菌に保存されているグルタミン合成酵素はglnALGオペロンの最初の遺伝子にコードされる.glnAglnLの遺伝子間領域にはRho非依存性ターミネーターが存在し,そこで転写終結したglnA mRNAは終止コドン周辺でRNase Eによるプロセシングを経てsmall RNA (sRNA) GlnZを生成することを明らかにした.サルモネラでは約190塩基のGlnZ1と約50塩基のGlnZ2を生成する.大腸菌ではターミネーター以外の塩基配列は大きく異なり,3種類に分類される.K12株では約200塩基のGlnZを生成するのに対して,O111株では約230塩基,O157株では約85塩基のGlnZを生成した.これらのGlnZ sRNAの発現は,グルタミン合成酵素GlnAと同様に窒素飢餓で誘導された.RNA-seq解析およびin silico標的配列解析によって,GlnZとの塩基対形成によって転写後調節を受ける遺伝子sucA, aceE, glnPを同定した.ピルビン酸脱水素酵素E1pサブユニットをコードするaceEは大腸菌GlnZによって抑制されるが,サルモネラではGlnZ1/GlnZ2が持つ一塩基挿入G (glnA終止コドン下流141番目) によってaceEの抑制が失われた.第一の標的遺伝子と考えられるsucAはTCA 回路の2-ケトグルタル酸脱水素酵素E1oサブユニットをコードし,その発現は窒素飢餓条件において野生株よりもglnZ破壊株で有意に増加した.このことから,窒素飢餓によってグルタミン合成酵素の発現が誘導される際には,そのmRNA 3'UTRから生成するGlnZを介して,2-ケトグルタル酸脱水素酵素の発現を転写後レベルで抑制することで,TCA回路の炭素源のフローから2-ケトグルタル酸をグルタミン合成に配分する生理学的機構が明らかになった.